本格焼き肉・ホルモン ふたご(中目黒)
2011年は食中毒事故の影響で焼肉業界には逆風が吹いた。
そんな、状況下でももろともしない店がある。それが、中目黒にある「本格焼き肉・ホルモン ふたご(以下ふたご)」である。2011年11月には13坪で800万円を記録した超人気だ。
実はふたごは五反田に一号店がある。こちらの店もほぼ同じ広さ13坪で月商600万円を売り上げている。店名は店主が双子の李兄弟であることに由来し、わかりやすい。実は、彼ら有名高級チェーンで不振店舗の立て直しをやっていた凄腕だ。したがって、私にしてみれば、この成功は別になんの不思議なことではない。
焼肉屋の本質として「気軽さ」がある。この気軽さが機能するとかつての牛角のようにはじけることになる。
現に、焼肉が基本的にひとりで行く業種でないにも関わらず、食べログの評判によって集客力が増したというケースは多々ある。食べログが効くというのは「気軽さ」があるということを示す。
ふたごの成功要因は、お客様と自然に接し、自然なサービスを通して店の魅力に引き込むことが大きい。そして、"スーパーマン"と自称する李氏の新規客への接客である。
焼肉業界の流れは、ここ10年、希少肉・希少部位の提供による高級食材をリーズナブルに提供することか、空間を良くしてサービスによる差別化する流れかであった。
しかし、ここにきて肉を追求するやりかたは節目になった。なぜならば、希少部位や希少肉の追求には限度があり、ある一定のレベル以上になると他の高級店との差が伝わりにくい。
サービスにおいては、従来の焼肉屋や居酒屋に比べてのサービスの差別化であり、効率を重視してきた。しかし、このふたごを見る限り、サービスは一気に考え方が変わり、次のステージに入ったことがわかる。
ふたごのサービスの本質は、気軽に入った店で楽しむということだ。
今までの楽しさというのは、今までになかった新しいサービスに出会うことで、非日常を追求した。そうではなく、行きつけの気軽な店で感じる飽きの来ない楽しさだ。それは、店のスタッフと仲間になることと言える。この楽しさの本質は部活動だ。自分が何かに参加して役割を果たし、そのかかわりを継続して、成長しているというものを実感する。
ふたごの良さは学生時代の部活動にある。
さて、李兄弟は「ふたごすたいる」という五つの方針を掲げている。私は、高級イメージのある会社にいた彼らが、このふたごのような気軽で大衆的な雰囲気の店を作ったことにとても興味があった。その答えは彼らのポリシー「ふたごすたいる」にある。
「ふたごすたいる」
壱 厳選肉を量半分、値段半分でご提供
弐 焼き肉はご褒美食でなく日常食
参 新鮮絶品ホルモンで「お客様リピーター率120%宣言」
四 名物黒毛和牛のはみでるカルビ
五 五感で楽しめる焼き肉・ホルモン
入り口は"焼肉"という大きな提灯とのれん。計算して、安っぽく作ってあり、見込み客が思わず気軽にちょい飲みで足を向ける。入口が微妙にわかりづらいのもいい。ウエィティングが出なければ、目立たない。
牛角の成長期は「デートに使える焼肉屋」がキーワードだった。しかし、焼肉屋が過当競争の時代に入り、真新しさの鮮度は落ちた。そのような環境下、マンネリカップルやマンネリ職場仲間が気軽に利用できるのはむしろ武器になる。もはや、人口ボーナスが無くなった今、きれいに見せて、ビギナーを狙うやりかたはThe End!外食をある程度わかると、今までにない意外性あるいい店にワクワクする。意外性にとっての敵は事前期待だ。事前情報を与えず、どうやって店という劇場にお客様を入れるかを考えたときにふたごのような店の「気軽さ」は武器になる。そんな入口をこの店は演出している。それが、13坪で月商800万円の入口になった。
店内に入ると、雰囲気はやはり期待を裏切らず大衆的だ。いや、入り口で想像した以上に大衆的で気軽な雰囲気だ。これなら、着の身着のまま来ることができる。
「ふたごスタイル」では弐に「焼き肉はご褒美食でなく日常食」と書いてあるが、デート利用ではなく、日常を楽しむという方針の筋がとっている。店構えもそうですが、「気軽」という日常のキーワードがしっかり空間づくりでもフォローされている。
居住性は快適性を重視したチェーンをあざ笑うかのように狭く、窮屈だ。しかし、この空間にエネルギーを感じさせる。
さて、この店のしかけは空間だけにとどまらない。ふたごスタイルのひとつ「厳選肉を量半分、値段半分でご提供」がうまく機能している。
通常の焼肉屋の買い上げ点数は5品だ。買い上げ点数が5品だと、定番しか食べない――カルビ、タン塩、ビールが売れ筋なるわけで、それだと特徴がなかなか出せない。
この量を減らしていろいろ食べてもらうようにした結果、ふたごでは買い上げ点数が8品となっている。
そして、日常でありながら、意外性があるのは、この店の特徴を出すおすすめメニューをスタッフが焼き上げることだ。気軽な雰囲気にサービスをつけることで、今までにない付加価値を出す。
しかも、800万円をたたき出した11月のピークでも5人で店を回した。
しかし、そこにはちゃんとしかけがある。
新規客は10品ほどあるおすすめメニューを選ぶ。そこで、来店経験が少ないお客様との接触回数を増やし、コミュニケーションをとり、「ふたごすたいる」の焼肉を勉強させる。そのゴールが焼き奉行だ。スタンプカードを集めて焼き奉行として認められると名前入りのゴールデントングが授与される。それをお店においておき、教育された常連が自分の客人をもてなすのだ。
そのため、メニューも勉強が必要なようになる。そのコンセプトの象徴となるアイテムが「はみでるカルビ」だ。実はロースターはこのはみでるカルビから逆算されているようで、載せるとはみ出し、ロースターが酸欠状態となる。
そして、表面をあぶって、はさみで説明しながら切り分ける。この自然ななりゆきが、接客サービスをしていることを意識させず、焼き奉行の素質のある見込み客の心に浸透していく。これが、お客様を自然に教育し、自分達と同じ価値観を共有させるというPE(パブリックエンゲージメント)をするために重要なステップだ。
初回来店客の再来店率の低い今の時代、初回来店時にいかにお客様との距離を縮められるかが重要だ。そのためには、接触回数を増やすしかけが重要だ。
例えば、塚田農場はリノベという行程を各メニューに取り入れている。リノベとは、ある程度食べ終わったメニューにひと手間加える提案をすることだ。リノベは接客のネタであり、お客様に貸しをつくるツールだ。
多くの外食は効率化をはかったが、繁盛店は非効率化を推進している。不思議なことにこの非効率がお客様をよび、かえって生産性を高める。
ふたごも、焼くことでお客様との距離感が縮める。はさみでチョキチョキしながら、注目を誘う。興味を持っていただければ、「肉の部位の商品説明」というお客様を教育するプロセスをごくごく自然に行うことができるのだ。
「何だかわからずふらっとやってきた人にさりげなく話す」か「生徒に候補生を連れてきてもらう」これがお客様を教育し生徒を広げるポイントだ。
店のしかけを意識させないことが大切だ。それを自然に実現しているのが李兄弟だ。彼らの能力の高さ光る店だ。さあ、李兄弟!世界へ羽ばたこう!
Open arms!