6兆円と言われるドラッグストア市場は2000年から2014年までの14年間で年率6%と高い成長を遂げてきた。生活密着型の小売市場においては、コンビニエンスストア、地域食品スーパーと並んで勝ち組の一業態と言われている。
しかし、一方でドラッグストア市場は規模競争の様相も呈しており、M&Aで大型化する企業と自社で大量出店する企業が覇を競っている。まさに戦国時代さながらに、群雄割拠の状態となっている。ここ数年で勢力図も大きく変わっており、まさに陣取り合戦というにふさわしい状況である。
そういった中、小規模企業は自力で生き残るのはますます厳しい環境となっており、勢いM&Aで大手の傘下入りする企業が後を絶たない。
そんな中、全国シェア1%に満たない売上企業のサッポロドラッグストアは、極めてユニークな方法で生き残りの道を進んでいる。もちろん、全国シェア1%未満と言っても北海道に限定すれば25%のシェアがあり、地域内では大手である。しかし、地域性が強い食品スーパーは地域シェアこそ重要であり、必ずしも絶対規模が大きいことが必須とは言えないが、ドラッグストアの扱う商品は食品スーパーほど地域性が濃いわけではない。そのため、会社全体としての売上規模は重要である。
その中にあって同社は、むしろ地域の特殊性をいかに経営に取り込むかに知恵を絞っており、他のドラッグストアとは一線を画す路線を歩んでいるように見える。
一つのアプローチとして、同社では地域興しの意識を強めた施策を行っている。大手流通業の多くはカードを通じた提携を進め、顧客の囲い込みに熱心である。しかし、大手流通業のカードの提携先は大手企業が中心であり、地域の中小企業はその枠組みに入り込めない。そこで同社では同社のEZOCAカードを用いて、北海道の地場企業との提携を積極的に進めている。
すでに提携先社数は79社550店舗に達しており、タクシーも800台のカバーとなっている。会員数は124万人で、推定世帯カバー率は同社のシェアに近い道内約23%である。また、北海道のサッカーチームであるコンサドーレ札幌とも組んだコンサドーレEZOKAカードや北海道企業が開発した初音ミクを用いた雪ミクEZOKAカードなどを発行して、新規顧客の創造につなげている。
たとえば、コンサドーレEZOKAの会員は8,000人であるが、この2分の1は同社に来店したことのない会員であり、同社の認知度の向上に一役買っている。
また、訪日外国人に人気の北海道ならではの取り組みとしては、他の企業とはスタンスの大きく異なるインバウンド対応がある。大多数の企業のインバウンド対応は、これまでの自社商品を訪日外国人にたくさん買ってもらおうという発想が中心である。しかし、同社のアプローチは、訪日外国人が買いたいと思うものを製造し、販売する専門店を立ち上げるというものである。まさに、逆転の発想と言えよう。
同社では、訪日外国人がほしいと思う商品を品ぞろえし、場合によっては新たなブランドを立ち上げて、専用商品の開発を行っている。「馬油」、「フェイスマスク」、「洗顔料」などを北海道ブランド、サツドラブランドとしてインバウンド向けに開発した。また、道内のクリニックと北海道の美容成分を配合した化粧品も開発している。
すでに、2015年度には7店舗のインバウンド対応店を出店し、2016年度分も合わせて、現在までに10店舗を出店した。ただし、同社はそこにとどまらず、同じく訪日外国人が多い、沖縄にも同じ商品を販売するインバウンド専門店を立ち上げている。訪日外国人に人気のある商品であれば、場所は北海道に限らないという発想である。
さらには、この北海道ブランド、サツドラブランド商品を海外で直接販売しようという試みも行っている。第1弾としてはマレーシアのコタキナバルの他社運営店舗で、それらのブランド商品を販売している。
有賀の眼
同社はこのように、群雄割拠のドラッグストア業界での生き残りを模索する中で、インバウンドという新しい波を見事に取り込みつつあるのでないかと考えられる。それは、やはり発想の転換で、インバウンドは従来商品を訪日外国人に売るという既成概念を否定するところから始まっているのである。
訪日外国人はすでに日本にあるものをほしがるという思い込みにとらわれる必要はないのである。そう発想すれば、訪日外国人がほしがるものの開発に結び付く。そして、訪日外国人がほしがるものは、当然外国人がほしがるものであって、それでは海外で売ろうという発想につながる。
少し目線を変えるだけで、さらに新しいチャンスが生まれてくるのである。何事も受け身では、既成概念から抜け出せないのであり、いかに一つのことを360度異なった方向から眺めてみることが大切かわかる例ではないだろうか。