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戦略・戦術

第七十九話 廃材が紡ぐ未来―東大阪の縫製工場の挑戦「地球黒字化経営」

中小企業の「1位づくり」戦略

こんにちは、1位づくり戦略コンサルタント 佐藤元相です。

今回は、大阪府東大阪市の住宅街に佇む栗山縫製株式会社をご紹介します。

この縫製工場は、大手アパレルメーカーからの受注を中心に、衣料品の生産や輸入衣料の検品作業、リペアといった多岐にわたる業務を行っています。特に高い縫製技術が評価され、国内外からの受注が年々増加している実力派の企業です。

しかし、栗山縫製で目を引くのは完成品の衣料品だけではありません。工場で日々生まれる「廃材」の活用です。通常なら廃棄される布端材に新しい命を吹き込むこの取り組みには、「地球黒字化経営」という壮大なテーマが込められています。

この挑戦を牽引するのは、創業から65年以上続く家業を引き継いだ3代目社長の栗山泰充氏。その熱い想いが、企業の未来を切り拓いています。

 

「もったいない」の精神

栗山縫製は昭和33年(1958年)、大阪市大正区で創業しました。以来、高品質な縫製技術で顧客から信頼を得てきました。平成8年(1996年)には本社を東大阪市に移転し、30名の本社社員と国内グループ企業を含む約110名の体制で、衣料品業界を支えています。

しかし、大量生産・大量廃棄が常態化する中、栗山社長は次第に違和感を覚えるようになりました。日々生まれる布の端材、これをただ捨てることに疑問を抱いたのです。


「この布も、地球からの大切な資源。次世代に地球の黒字を残すためには、もっとできることがあるはず。」
そう語る栗山社長の思いが、会社全体を巻き込む挑戦の始まりとなりました。

 

きっかけは一つのマーマレードから

転機は数年前、栗山社長がとあるセミナーで聴いた女性経営者のお話でした。彼女は廃棄されるはずだった柑橘類を活用し、世界的なマーマレードを生み出しました。


「無駄なものなんてない。全てには新たな価値がある。」

言葉が栗山社長の胸を打ちました。自分たちが捨ててきた布端材も、きっと新しい命を与えられるはずだ。彼はすぐに行動を始めました。

 

廃材から資材へ――挑戦の日々

栗山縫製の取り組みは、地元の町工場や外壁塗装業者に布端材を提供することから始まりました。ウエスや塗装拭き取り布としての活用は実用的なものでしたが、戻ってきた布が予想外の可能性を見せます。

塗料が染み込んだ布が、まるで抽象画のような独特の風合いを生み出していたのです。それを見た栗山社長はバッグの製作を思いつきます。そして、展示会でお披露目したバッグは「廃材から作ったとは思えない」と大きな反響を呼びました。

 

さらに、地域の伝統工芸「裂き織り」の職人たちも工場を訪れ、布端材を活用した新しい織物を提案しました。こうして廃材から生まれたランチョンマットやバッグは、栗山縫製の新たな商品として世に出ることになります。

 

「地球黒字化経営」の実現へ

栗山縫製の挑戦は、「廃材を資材に見立てる」だけに留まりません。それは「地球黒字化経営」という壮大なテーマへと発展していきます。
地球黒字化経営とは、未来の世代に負債を残さず、環境と共生しながら持続可能な社会を目指す経営方針です。栗山縫製の取り組みには、このテーマが深く根付いています。

  • 環境への配慮: 布端材を無駄にせず、新しい商品として活用。廃棄物を減らし、再利用を促進しています。
  • 地域との連携: 地元企業や職人、住民との協力によって、廃材の活用を多角化。地域全体で地球黒字化を推進しています。
  • 教育と普及: 「物を大切にする心」を社員や顧客に伝え、社会全体で意識を高める活動を展開しています。

栗山社長は、環境意識の高いブランド「パタゴニア」のリペア事業にも参画。壊れた衣服を修理し再び使えるようにするこの活動は、「物を大切にする心」を広める重要な一歩です。

 

未来を紡ぐ「感謝」の精神

栗山縫製の社員たちは、廃材を捨てる際に「ありがとう」と声をかけます。「布の命に感謝する」というこの習慣は、栗山社長が大切にする価値観そのものです。
「物に命を感じ、感謝して活用する。その気持ちが広がれば、未来はきっと良くなる。」
栗山社長の言葉には、次世代に地球の黒字を残したいという強い願いが込められています。

 

布の命を未来へ紡ぐ

東大阪の小さな縫製工場で始まった「廃材から資材へ」の挑戦。その先には、「地球黒字化」という大きなビジョンがあります。
栗山縫製の物語は、一つの布、一人の想いがどれほど大きな力を持つかを教えてくれます。この取り組みがさらに広がり、未来の社会を変えていくことを期待せずにはいられません。

「地球を守るという使命を、私たちはものづくりの中で果たしていきます。」

栗山泰充社長のその言葉が、今日も布に新しい命を吹き込む工場を支えています。

 

会社概要

  • 社名: 栗山縫製株式会社
  • 所在地: 大阪府東大阪市
  • 創業: 昭和33年(1958年)大阪市大正区
  • 本社移転: 平成8年(1996年)東大阪市に新社屋を完成
  • 従業員数: 本社30名、国内グループ企業を含め約80名
  • テーマ: 地球黒字化経営

    栗山縫製の挑戦は、東大阪から日本全国、そして地球全体へとその輪を広げています。

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