「井上先生、ご相談が…」
2人の経営者から立て続けに、M&Aの相談を受けました。
どちらも、M&Aで会社を買う立場にあります。
W社は、自社商品の世界展開をもくろんでおり、アメリカ西部にある会社を買うことを検討しています。
R社は、日本国内の市場で戦っています。
厳しい戦いを強いられていますが、もともと業務提携していた会社の経営者から、「会社を買ってくれませんか?」と打診があったのです。
W社、R社ともに、将来を見据えた前向きなM&Aであり、それぞれの経営者には、「積極的に進めなさい!」とアドバイスしました。
「ところで、売買金額はどう考えているのですか?」
そう尋ねると、それぞれ次のように返ってきました。
W社の社長
「相手の社長との打ち合わせで、10億円と決まっています。
向こうの社長がいうには、これくらいの金額はして当然、ということらしいです。」
R社の社長
「売り先は、最近赤字が続いているので、そんなに高い値段はしないと思うのですが…。
当社には高額出す余裕はありませんし…。
価格はどう決めたらいいのでしょうか?」
私は、どちらの社長に対しても、「デューデリをしなさい」と伝えました。
デューデリというのは、正確には「デューデリジェンス」といいます。
日本語でいうと、「資産査定」などと言われます。
決算書の中身を精査して、資産は価値があるか?隠れ負債はないか?というのをチェックする作業を言います。
これは、通常、公認会計士が時間をかけて行うものです。
ご存じないかたも多いのですが、通常、会社の売買をするときは、デューデリすることが当たり前なのです。
当然、それなりに費用は発生します。
中小企業の経営者は、この費用をケチろうと、自分たちだけで契約しようとしますが、これが失敗のもとになります。
契約したあとに、実は、
・在庫がまったくなかった
・売掛金で回収不能のものがたくさんあった
・品質不良、従業員との間でトラブルがあった
など、決算書だけでは見えない問題が噴出するのです。
つまり、買収金額が高すぎた、ということになるのです。
ほとんどの経営者はM&Aになれていません。
売上が増やせる、規模が拡大できる、と前のめりになっています。
しかし、これがとても危険なのです。
また、逆にM&Aで会社を売る側から相談を受けて、「少しでも高く売るにはどうするか?」アドバイスをすることもあります。
事業に将来性がない、後継者がいない、理由は様々ですが、こうした案件は、最近特に増えてきています。
M&Aは、会社同士の結婚と言われています。
会社同士の結婚も、仲人、つまり仲介を商売にしている会社が複数あります。
皆さまに注意していただきたいのは、彼らはM&Aを成功させて手数料を高くとる、これしか頭にないことです。
M&Aした後のことなど、はっきりいって少しも考えていません。
「いまが、まさにちょうどよいタイミングです!」
「これを逃すと、次はないですよ!」
「この話は二度と出てこないでしょう!」
などと早く決断させるような言葉を投げかけてきます。
しかし、早すぎる決断は拙速となり、必ず後々問題を起こします。
わがICOコンサルティングは、これまでにたくさんのM&Aを指導してきました。
実際に指導してきたからこそ、わかることがあるのです。
M&Aには、高い専門性と豊富な経験をもったアドバイザーの存在とじっくりと結論を検討できるだけの十分な時間を持ってください。
M&Aを成功させる秘訣は、強い味方と十分な時間にあるのです。