◆なぜ、不正等は発生するのか
不正と横領とでは、状況が異なることがあるため、分けてお話します。
不正の場合、例えば、融資を受けるために、決算書を改ざんして利益を計上するしかないと考えるときなどに発生します。不正の場合、このような強い「動機」や「プレッシャー」からスタートします。
ある上場会社ですが、他のメーカーから株式の買占めの情報が入り、それを上層部に伝えると、とにかく利益を上げて株価を上げ、買収されないようにするしかないと一丸となって行動したことがあります。
誰一人、反対する人はいなかったのです。これしか方法はないと信じ込んでいたのでしょう。
そして、不正はいけないこととはわかっていても、これしか会社を救う道はないということを何度も思い込もうとします。不正を「正当化」するのです。
この正当化は、人が行動する場合において大切なことであり、例えば、衝動買いをした場合でも後悔したくない為、必ず、自分の買った行為を正当化します。「今、買わなければ絶対に手に入らないのだから。そう。きっと。そう」
そして、不正が本当に出来るかどうか、考えるのです。
上場会社の場合は、公認会計士の監査がありますが、毎日監査しているわけではありませんので、時間的には可能です。
また、中小企業の場合は、経営者が行う不正については、誰も止められない為、やろうと思えばいつでも出来る「機会」があります。
このように、不正は、強い「動機やプレッシャー」があり、それを「正当化」することは容易で、しかも簡単にできる「機会」があれば簡単に出来てしまいます。
そのときは、ばれるということまで意識はしないものです。だからこそ、お粗末な不正が多いのです。
この「動機やプレッシャー」「正当化」「機会」が不正発生のトライアングルといわれるものです。
この3つが揃えば不正は発生します。
動機や正当性は、個人的な内面の問題であり、これについては、大企業も中小企業も同じことが言えます。ただ、中小企業にとって、今回の増税が、まさに、不正等を行う内面を引き出すきっかけになってくることは確かです。
しかし、機会、つまり、不正等を行える環境については、中小企業でも仕組みを構築しておくことで未然に防ぐことができます。
もちろん中小企業は大企業と同じ手法で、不正等を防止することは現実的ではありません。いずれにしても、経営者は、不正ができない環境、犯罪者を作らない環境を構築することを使命にしなければなりません。
横領はどうでしょうか。
万引きをしたことがある人は、その時の心理状態を覚えていると思います。
店のものを盗むことは悪いことだと分かっているけれど、どうしても欲しい。また、友達からやってみろといわれた。別にお金がないわけではないが、盗もうかと思う瞬間の何とも言えないドキドキ感がたまらなくなり何度か躊躇していくうちに、とうとう・・・。心臓の鼓動は最高潮に達します。そして、終わった瞬間、何とも言えない気だるさと体の火照りを感じるものです。
なんだ。意外と簡単に行える。そしてはまっていくのです。
このように、たいした動機がなくても行ってしまうが横領です。
個人的にお金がない。厳しいノルマを与えられ、先輩からは罵られ、はけ口として少し会社を困らせてやりたいという動機がある場合だけでなく、万引きのように動機があいまいな場合も多く見られるため、厄介です。
目の前にある小銭や切手、収入印紙をちょっとポケットに入れてみた。すると大人になっても何とも言えない緊張感が蘇り、それがキッカケとなって深みに入っていくのです。
中小企業でも横領金額が1億円を超えることがあります。最初は少額でも止められなくなり、重ねていけば大金になっているのです。
異性との交際のためにお金が必要な場合、多額になりがちです。経験上、女性の方が大胆で緻密で、多額です。
男性の場合、動機が、住宅ローンの返済や教育資金などが多く、なんだか気の毒になったこともあります。
横領に正当化などあるのでしょうか。
勝手な言い分ですが、立派にあります。
先輩もやっている。みんなやっている。だからいい。カラオケ店や飲食店で良くあるケースです。
いつもサービス残業をしているので少しくらいならいいはずだ。
社長だって公私混同しているから自分がやっても当然だ。
どう見ても勝手な言い分ですが、本人からすれば本当にそう思っていますし、思いこもうとしています。
うそも100回つけば本当になるとはよく言ったものです。
ほんの出来心にせよ、偶然にせよ、意図的にせよ(ここまでが動機のお話し)、横領しても見つからないことを経験し(やろうと思えばいつでもできると言う機会のお話し)、良心の呵責を乗り越えられるだけの正当性があれば横領は行われます。
後は、たばこや麻薬と同じで、やめられなくなります。
◎海生裕明先生のセミナー
「会社と個人の資産管理」 2014年8月6日