「債務者のルール」といっても、債務者はそのルールを知っているわけではない。それでも、「Moscow Rules 」というDaniel Silvaの海外ベストセラー小説のタイトルから拝借して名づけたとような 「債務者のルール」というものが歴然と存在する。
そして、悪いことに、それを債務者が知るときはほとんどのケースで危機に陥ったときでしかない。
たとえば、 事業が破たんして担保がついている不動産を売ろうと決めて、買い手をみつけてきても担保をつけている根抵当権者・銀行がオーケーしてくれないということがある。
その不動産の所有権が自分にあるにもかかわらず、自分では売るということを決められないのだ。
たとえば設備投資をするため信用保証協会付の融資を受けて、その翌年の決算書に「減価償却」がなければ、債務者が資金使途を勝手に変えたからという理由で、その後信用保証協会付の融資はおろか、プロパーの融資でさえ事実上新規融資をしてもらえなくなる。
たとえば、事業承継のため会社の代表取締役を息子にし、新社長とともに銀行に行ったとする。
「あー、もう会社の経営から離れられる」と思っていても、銀行の融資担当者が出してきた書類は、代表者の変更届だけでなく、重畳的債務引き受け契約書。
高齢ゆえに社長をやめて長男に社長を譲ったにもかかわらず、やめた旧社長も会社の債務を引き受けなければ(連帯保証人になります)ならないのだ。
ここで、 「私は社長をやめたのだから保証をはずしてくれ」と言っても銀行は承諾してくれない。「規則ですから・・・」と言われるのがいいところ。
そんなルール、知るよしもない。それにも、かかわらず、債務者であれば、企業だけでなくどんな人にもこのルールが適用される。
つまり、「債務者は、債権者の勝手に決めたルールの中で生かされている」のです。債権者に歯向かっても何の得にもならない。債務者が債権者の意見をさえぎり、自分を主張してもプロフィットは生まれない。
むしろ、この「債務者のルール」を理解してしまえば、危機に直面しても債務者として生き残ることはできるのです。
そんな「債務者のルール」の最初に来るものがこの「債務者は、債権者の決めたルールの中で生かされている。」
「債務者のルール」を理解することでいったいどんな利益があるのか?きっとそう思うことでしょう?
でも、「敵を知り己れを知らば、百戦して危うからず 」という言葉があるようにそのルールさえ理解できれば、債務者としてどんな苦境に陥っても解決策をみいだせるもの。それこそが「債務者のルール」なのです。