ヒト、モノ、カネの「中国離れ」が加速
訪中外国人も激減している。筆者は昨年11月に北京・天津を訪れ、町を歩く外国人の少なさに驚いた。その原因を探ると、外国人留学生、訪中外国人観光客、外資系企業駐在員という3つの減少が鮮明になることがわかった。
北京大学の賈慶国教授によれば、23年アメリカからの留学生は約350人、10年前の約1万5000人から激減。韓国からの留学生も2017年に比べれば8割近く減った。
外国からの観光客が中国に戻ってこない。国家統計局の発表によれば、23年入国外国人数は1378万人、19年(4911万人)の3割弱に過ぎない。外国企業の駐在員も減少している。上海、北京など大都会の外国人向けのオフィスビルは、昨年より空室率が急増している。これは外資系企業をめぐる経営環境が悪化し、日米欧企業の中国撤退が相次ぐことが原因だ。
外需(輸出)、外資、外国人の減少は、経済成長にとって大きなマイナス要素となっている。背景にはモノ、カネ、ヒトの「中国離れ」が加速している実態が浮き彫りになる。その一因は昨年「反スパイ法」の改正で適用範囲が拡大し、外国企業が反スパイ法の恣意的な運用を懸念しているからだ。
米中対立が激しさを増す現在、習近平政権は経済成長より国家安全を重視する方針を打ち出している。昨年、反スパイ法改正・施行以降、中国政府は反スパイ宣伝を強化し、国家安全省が毎週のようにマスコミに登場し、反スパイキャンペンを行っている。しかし、過分に国家安全を強調すると、外国、特に西側諸国の企業も国民も中国を警戒し、経済成長に逆効果がもたれされる。
前出の北京大の賈慶国教授も反スパイ法の適用範囲があいまいで、「どのような情報をいかに収集すれば違法にならないのか明確でない」と指摘している。
今後、モノ、カネ、ヒトの「中国離れ」をどう食い止めるか? 経済成長と国家安全をどう両立するか? 中国政府は難しい選択を迫られる。