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経済・株式・資産

第122話 ファーウェイはなぜ潰れないのか

中国経済の最新動向

 トランプ政権によるファーウェイ(華為技術)制裁が続いている。他国の一民間企業に対して国家の力を動員し容赦なき攻撃を行った例は過去に見当たらない。アメリカの集中砲火を浴び、存亡危機に晒されるファーウェイは、本当に生き残れるか?

 

◆制裁受けても8年連続増収増益

 ファーウェイは7月30日、2019年上半期(1~6月)決算報告を発表した。それによれば、売上高は前年同期比23.2%増の4,013億元(約583億ドル)、純利益は349億元(約50.7億ドル)で利益率が8.7%。スマホ出荷台数は前年同期比24%の1億1800万台にのぼり、6月までの5G商用契約50件(うち、欧州28件)を獲得し、15万の基地局を出荷した。5G契約件数はライバルのノキア(43件)とエリクソン(22件)を大きく上回っている。

 トランプ政権の集中砲火を受けたのにもかかわらず、ファーウェイは死なずに8年連続で増収増益が続いている(図1を参照)。

 

図1.png

出所)ファーウェイ歴年決算報告書より沈才彬が作成。

 

 一方、ファーウェイの好業績と対照的に、同社の米国サプライヤー企業はトランプ政権の禁輸措置によって大きな被害を受け、余儀なく減収減益となったケースが続出している。例えば、インテルは2019年2Q(4~6月期)利益が前年同期比で17%減、フレクストロニクスは61.3%減、AMDは70%減、マイクロン・テクノロジは78%減となっている。貿易戦争は米企業にも大きな打撃を与えているのが明らかである。

 

◆ファーウェイ強さの秘密~危機意識とリスク管理

トランプ政権による容赦なきファーウェイ攻撃は、昨年の「ZTE(中興通訊)制裁」を想起させる。

 

 ZTEはファーウェイに次ぐ中国通信機器大手2位であり、国有企業でもある。2018年4月、米商務省はZTEが米国の経済制裁法と輸出規制に違反しイランと北朝鮮に通信機器を輸出した問題で、米企業からZTEへの部品輸出を禁止する制裁措置を発動した。この制裁措置によって、ZTEは生産停止に追い込まれ、経営破たんに直面していた。3カ月後、ZTEは14人の取締役全員退任、10億ドルの罰金と4億ドルの預託金(今後問題を起こした場合の罰金)の支払い、米国の監視チーム受入れなど米側の条件を余儀なく呑んだ後、米商務省はZET制裁を解除した。ZTEの全面降伏に等しく、中国の国民にとっては、忘れ難い屈辱の一幕だった。

 

 今回のトランプ政権の容赦なき制裁によって、ファーウェイもZTEと同じ道を辿るか?世界に注目される中、7月30日に発表されたファーウェイ2019上半期決算報告は、トランプ政権の制裁に対する反撃とも読み取れる。結果的には、ファーウェイは死なずに増収増益が続いている。全面降伏のZTEと好対照となっている。

 

 それではファーウェイはなぜこんなに強いのか?筆者はファーウェイ強さの秘密が主に2つあると思う。1つ目は強い危機意識と徹底したリスクマネージメントで、2つ目は持続的な巨額の研究開発投資である。

 

 ファーウェイは1987年に任正非CEOなど5人の創業者に作られた民間企業である。創業当初、任CEOが毎日考えなければならないのは、「どう生きていくか」であり、会社消滅の危機感と恐怖感に常に苛まれてきた。当時、必死に生き延びようとしてシェアを伸ばそうと努力を続けたことが、現在続いている高成長の原動力となっている。

 

 2000年、ファーウェイは220億元の売り上げ、20億元の利益を達成し、中国エレクトロニクス業界のナンバーワン企業に成長した。だが、好業績を前にしても、任CEOの危機意識は全く変わらなかった。翌年の2001年3月に、ファーウェイの社内誌に任は「ファーウェイの冬」という文章を掲載した。この文章の中で任CEOは危機感を露わにしている。

 

 「10年来、私は毎日、失敗についてばかり考えてきた。成功は見ても見なかったことにして、栄誉や誇りも感じず、むしろ危機感ばかりを抱いてきた。だからこそ、ファーウェイは10年間も生存できたのかもしれない。どうすれば生き残れるかを皆で一緒に考えれば、もう少し生き延びることができるかもしれない。失敗というその日はいつか必ずやってくる。我々はそれを迎える心の準備をしなければならない。これは私のゆるぎない見方であり、歴史の法則でもあるのだ」

 

 任の文章を発表した当時はITバブルの最盛期であった。多くの企業はバブルに陶酔し、危機の到来をまったく察知しなかった。だが直後、任が指摘した通り、危機が到来しITバブルが弾けたのである。このとき、多くのグローバル企業が経営破綻に陥ったが、常に危機感や緊張感を持つファーウェイはITバブル崩壊を無事に乗り越えることができた。

 

 2003年前後、ファーウェイにとっては転換点だった。任CEOは今年5月18日、深圳市の本社で日本メディアの取材に応じた時、次のように述べている。「その頃から我々には段々高みに登っていく予感があった。10年後、必ずアメリカと争うことになる。そのときのために備えなければならないので、準備を始めた。社内にひっそりと準備チームまで作った」と。

 

 この準備チームの仕事はまさに独自の半導体チップ及び独自の基本ソフト(OS)の開発である。10数年にわたって努力を続けた結果、半導体チップについて、現在、ファーウェイは半導体メーカー・ハイシリコン(海思半導体)を持ち、スマホ用向けSoC(システム・オン・チップ、統合チップ)のキリン(Kirin)、サーバー用CPUのKunpeng、5G携帯電話基地局向けコアチップのTiangang、端末向け5GモデルチップのBaiong、AIチップセットのAscendなど、多くの製品の自社開発に成功している。また、OS(操作システム)について、ファーウェイは今年8月9日に開発を進めていた独自OS「Harmony(鴻蒙)を発表した。

 

 従って、たとえ米企業がファーウェイに半導体チップのサプライを停止しても、グーグル社がAndroidというOSの提供を打ち切っても、ファーウェイは生き延びることが出来る。まさに「備えあれば憂いなし」という諺の通りだ。

 

アップル上回る巨額の研究開発投資

 ファーウェイ高成長のもう1つの原動力は持続的な巨額の研究開発投資である。図2に示すように、ファーウェイの研究開発投資は年々急増している。


 

図2.png

出所)ファーウェイ歴年決算報告書より沈才彬が作成。

 

 欧州委員会のデータによれば、2018年ファーウェイの研究開発投資は113億ユーロにのぼり、サムソン(134億)、アルファベット(134億)、VW(131億)、マイクロソフト(123億)に次ぐ世界5位で、アップル(97億)やトヨタ(79億)を凌ぐ。現在、ファーウェイは毎年売上の10%超を研究開発に充て、18万人のグローバル社員のうち、8万人超が研究開発要員で全体の45%を占める。

 

 研究開発重視のルーツは1998年から導入された「華為基本法」に遡る。会社の憲法である「華為基本法」第26条では、次のことが定められている。

 

「我々は売り上げの10%を研究開発費とし、必要に応じ、さらに比率を高めることを約束する」

 

 毎年巨額な研究開発投資を実施した結果、ファーウェイの国際特許出願件数も急増している。5G技術を例にすれば、2018年ファーウェイの5G必須特許出願件数は世界一で全体シェアの15%を占め、ノギア(13.8%)、サムソン(12.7%)、LG電子(12.3%)、クアルコム(8.8%)、エリクソン(7.9%)など同業他社をリードしている(図3を参照)。

 

図3.png

出所)「日経」朝刊2019年5月3日記事、ドイツIPリテイックスなどより作成。

 

 ファーウェイの5G技術は世界の最先端を走り、だからこそアメリカにとって大きな脅威と見なされる。ファーウェイをめぐる米中間の争いの本質が技術分野の覇権争奪にある。(了)

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