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税務・会計

第100号 不正摘発現場 その3

会社を守り抜くための緊急対策

 試算表や決算書を作成している経営者や経理の方々は、数字が叫んでいる声を聞くことができますか?
 決算書を第三者の目で客観的に見ている会計士や税理士、金融機関の方々も、数字の叫び声を聞くことができますか?
 帳簿をみても不正はわからない。
 これは長年、不正の発見を行ってきて、いつも思うことです。
 数字の1は、ただ、数字だけを見れば、無味乾燥な1にすぎませんが、数字は、人の行動の結果に出てくるものです。
 数字の裏には、多くの人の動きがあるものです。その動きをとらえることができなければ、数字は何も叫んではくれません。
 経理や会計士にとって、1+1=2かもしれませんが、経営においては、1+1が100にも、-100にもなります。
 不正の発見は、現場へいかに足を運ぶかにかかっています。そして、現場の空気や現場の人とのコミュニケーション、そして人以外にモノの流れを把握した上で、初めて、数字は生きてきますし、数字の叫び声が聞こえてきます。
 会社の経理の人の多くは、経理の部屋にこもっている場合が多く、積極的に現場に足を運ぶことをしません。
 会社のすべての情報が数字になって経理に集まってくるのにも関わらず、現場を知らなくては、数字の叫び声を聞くことはできません。
 もちろん、私も、すべての現場に足を運ぶことは不可能なので、それを補完する上でも、前回お話ししたように、月次のバランスシートの残高推移表を作成し、数字の叫び声を聞きやすくしているのが実情です。
 コミュニケーション能力を勘違いしている専門家も多くみられます。ペラペラ話をすることが、コミュニケーション能力があるのではありません。
 相手の話をいかに聞き出すか、それがコミュニケーション能力なのです。
 最近のことですが、ある上場会社で久々に監査を行いました。
 上場会社の場合、会計士の担当が変わった際は、前の監査人である会計士との引き継ぎをしなければなりませんが、前任の会計士と面談した際、その会計士がこんなことを言っていました。
 「社長から、上から目線で見られ、馬鹿にされている感があった」と。
 「だから、なかなか本当のことを言ってもらえなかった」
 残念ながら、私が見ても、そう言われても仕方がない感じの会計士でした、というよりそのような会計士が多いのでしょう。
 「信頼してもらえていない」
 そうも言っていました。
 弁護士や会計士などの資格があれば、一応は「信用」してくれるかもしれません。得体の知れない人よりは、身元がはっきりとしていますので。
 しかし、「信用」されても「信頼」されるとは限りません。
 「信頼」には信頼関係と言われるように、人間関係が必要になってきます。
 信用関係とは言いません。
 専門家は、初対面でも「私のことを信頼してください」と顧客に言うことがありますが、信頼は、頼んでしてもらうものではありません。人間関係の中で芽生えてくるものです。
 資格者で若い時から「先生」と言われてしまえば、自分がどこか偉いと勘違いしてしまいます。
 「先生」と言う側からすれば、「先生」と言わないと機嫌が悪くなる人が多いため先生と言っている人もいますし、面倒くさいから「先生」と言っていることもあるものです。
 偉そうにしていれば馬鹿にされないのかと言えば、それは間違っています。むしろ、腰が低い人ほど、本当に尊敬されることも多々あります。
 私の知っている若い弁護士は、ろくに挨拶ができません。しかし、弁護士であるがゆえに誰も注意はしてくれません。
 年齢を重ねていくにつれ、ますます誰からも言われなくなり、最後には、仕事の依頼もなくなる人もいます。
 「信頼関係」がなければ、不正や横領は発見できないと言ってもいいかもしれません。
 ドラッカーがこう言っていました。
 組織は、好き嫌いではなく、信頼関係によって成り立っていると。
 不正発見も同じなのかもしれません。
 
 

 

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