経済減速が続き、住宅バブル崩壊リスク、企業債務リスクに伴う金融リスクが増大するなかで、来年、中国政府はどんな財政・金融政策を取るかが注目される。
今年10月28日、習近平国家主席は中央政治局会議でスピーチし、今後の経済運営や財政・金融政策の方向性について、次の4つの方針を示した。
(1)積極的な財政政策を効率的に実施する
(2)合理的な財政支出を保障する
(3)資産バブルを抑制する
(4)経済・金融リスクの防止に注力する
ここに注目すべきなのは「効率的」「合理的」「資産バブル抑制」「金融リスク防止」という4つのキーワードである。つまり、来年、中国政府の財政・金融政策は経済成長を支えるために、「効率的」「合理的」という条件付で、引き続き積極的な財政政策を実施するが、政策の重点は「資産バブル抑制」と「金融リスク防止」に傾斜する。言い換えれば、今後の財政・金融政策は「保増長」(成長保持)から「防風険」(リスク防止)に転換する。「風険」とは住宅バブル崩壊リスク、地方債務リスク及び企業債務リスクに伴う金融リスクを言う。
数多くのリスクの中で、住宅バブル崩壊リスクは特に要注意である。下記図1のように、2015年5月以降今年9月まで、中国の住宅価格は既に17カ月連続で上昇し、平均価格の上昇幅は20%にのぼる。特に沿海部都市の住宅価格が急騰している。16年9月住宅価格上昇率上位12都市のうち、10都市が沿海部に集中している。そのうち、アモイ(46.5%)、南京(40.6%)、深?(34.1%)、上海(32.7%)など、いずれも30%を超え、バブル状態になっていることは明らかだ(下記図2を参照)。
資金が実体経済ではなく、不動産分野に集中し過ぎることは、金融リスクの増大に繋がる恐れがある。住宅産業は裾野が広く、建設、建材、建機、家具、家電などへの波及効果が大きい。そのため、住宅産業の好調は経済成長にプラス効果があるが、逆に住宅バブルが崩壊すれば、そのマイナス影響も絶大である。事実、2008年のリーマンショックはまさに米国の住宅バブルの崩壊がきっかけだった。従って、住宅バブルを抑制し、バブル崩壊を防ぐことができるかどうかが中国経済の行方を占う重要なポイントとなる。
出所)中国指数研究院の発表により沈が作成。グラフの指数とは住宅価格指数を指す。
出所)中国国家統計局の発表により沈が作成。
今年12月15~16日に開かれた「中央経済活動会議」は、この現実的な問題に対し明確なメッセージを示し、中国政府は住宅バブルを抑制し金融システム不安を起こさない方針を打ち出した。この会議で決められた来年の経済運営方針及び財政・金融政策の主な内容は次の通り。
◎安定の中で前進を目指し経済成長は合理的な範囲を保ち質と効率を高める
◎積極的な財政政策を効率的に実施する
◎金融政策は穏健で中立を保つ。金融リスク抑止をより重要な位置に据える
◎為替相場の柔軟性を高め、人民元は合理的かつ均衡ある水準を保つ
◎住宅は住むもので投機の対象ではない。資産バブルを抑え金融不安を回避する
ここに特に注目すべきなのは「住宅は住むもので投機の対象ではない」という表現だ。この表現は習近平氏の言葉を引用したものであり、中国政府が本気で資産バブルを抑制する強い意志を示している。
来年は中国にとって、政治的には節目の年であり、5年に一度の共産党全国代表大会が開かれ、党と政府の重要人事を決める予定だ。住宅バブルの崩壊を回避し、金融不安を絶対に起こさず、党大会開催の成功を確保することは至上命令となる。そのために、中国政府は政治的にも経済的にも安定を最優先する方針を取らざるを得ない。リスク防止に力点を置く中国政府の財政・金融政策は正に安定最優先という大方針の具現である。