menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

マネジメント

ナンバー2の心得(10) 正確な情報でトップを支える

指導者たる者かくあるべし

 組織のトップリーダーというものは、存外に孤独なものである。その強力な立場から組織内外のことを何でも知っていると思われがちだが、さほどでもない。

 必要な情報を下に一々尋ねなければわからぬようでは指揮はとれない。聞かずとも正確な情報が自発的に迅速に上がってくるシステムが不可欠だ。それが難しい。官でも民でも違いはない。

 中曽根康弘内閣で官房長官を務めた後藤田正晴が官邸の情報掌握能力の強化に取り組んだのは、当時、あまりにそのことに無頓着だったからだ。

 1983年(昭和58年)9月1日午前3時10分、ニューヨークから韓國ソウルに向かっていた大韓航空機が航路外のサハリン上空を飛行中に突然、姿を消した。日本人乗客28人も搭乗していた。

 しかし、この日、後藤田に内閣調査室から情報が上がってきたのは、午前8時のことだった。この間、防衛庁からは何の情報もなかった。素早く動くべき外務省は全く知らないと言う。

 防衛庁、外務省はともに情報組織を持っていたが、犬猿の仲であった。「こんなことで危機対処ができるか」と後藤田は愕然とした。

 さらに、日米の共同歩調でのソ連の責任追及を目指した後藤田は、米国側からの、「防衛庁が入手している通信傍受データを公開して欲しい」と言う要求にショックを受けた。

 ソ連軍機が地上の司令部との間で交わした「撃墜せよ」「目標をロックオンした」「ミサイル発射」という通信を傍受した事実と音源は、官邸がその存在を知らぬうちに、米国に渡っていたのだ。

 「いったい、お前たちはどこの国の組織だ!」。後藤田のカミナリが防衛庁に落ちた。

 情報を入手した後藤田―中曽根ラインの決断は速かった。「機密情報である」として抵抗する防衛庁を押し切って、音源を公開した。わが国の傍受技術をソ連に知らせる危険な賭けだったが、これによってソ連も撃墜の事実を認めざるを得なかった。

 トップの孤独について、後藤田は5年後に発刊した回顧録の中で、こう指摘する。

 「総理大臣のところに入る情報というのは、本人がよほど注意していないと、〝甘い〟ものばかりになってしまう。総理自身が嫌がると見られる情報はまず入らないし、一つ判断を誤ったら大変な問題になる時には、誰も絶対に自分の考えは一言も言ってくれないのである」

 これを改めるために後藤田は、官邸の情報ルート整備に動いた。

 トップが、孤独から脱出する方法。情報に敏感なナンバー2を置き、情報ルートをシステムとして整備する他にはないのだ。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※参考文献
『情と理 カミソリ後藤田回顧録(下)』後藤田正晴、御厨貴監修 講談社α文庫
『政治とは何か』後藤田正晴著 講談社

 
 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナンバー2の心得(9) 後藤田五訓前のページ

ナンバー2の心得(11) 造反のタイミング次のページ

関連記事

  1. 後継の才を見抜く(8) 本田宗一郎の引き際

  2. 故事成語に学ぶ(13)九牛の一毛をうしなうが如し

  3. 逆転の発想(22) 需要がなければ作り出せ(阪急グループ創業者・小林一三)

最新の経営コラム

  1. 3分でつかむ!令和女子の消費とトレンド/【第16回】ベストセラーが生まれる理由とは? ヒットの裏にある「人を動かす隠れたホンネ」

  2. 今月のビジネスキーワード「人的資本経営」

  3. 講師インタビュー【増収・増益・増“元気”!数字を社長の武器にする経営】田中靖浩氏

ランキング

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 社長業

    Vol.107 「愚直に、やり続けてこそ戦略」
  2. 税務・会計

    第22回 常に減価償却を増やすことを考えている
  3. マネジメント

    第263回 異世界に飛び込む
  4. サービス

    140軒目 「《風格あるミシュランの三ツ星レストランに格付けされる福岡の鮨店》行...
  5. マネジメント

    第246回 「計画書風」の計画書
keyboard_arrow_up
menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ