労働集約型製品から技術・資本集約型製品にシフト
中国輸出の2つ目の構造的な変化は労働集約型製品から技術・資本集約型製品へのシフトだ。
労働集約型製品の代表格は繊維製品・靴類で、技術・資本集約型製品の代表格が自動車、特に電気自動車(EV)だ。2015年繊維製品・靴類の輸出金額は3,374億ドル、輸出全体に占めるシェアが14.8%にのぼる。一方、自動車及び部品の輸出額は僅か581億ドルで前者の6分の1に過ぎず、輸出全体の2.5%しか占めなかった。
ところが2022年になると、繊維製品・靴類の輸出金額は4,909億ドルで金額ベースでは増加したものの、シェアが1.2ポイント減少の13.6%。自動車及び部品の輸出額は2.5倍増の1,412億ドルに上り、シェアも1.4ポイント増の3.9%に達した。
今年に入ってから労働集約型製品から技術・資本集約型製品へのシフトが一層加速している。中国税関統計によれば、1~5月に繊維製品・靴類の輸出金額は1,459億ドル、うち、繊維製品が前年同期比で▼9.4%となっている。対照的に自動車の輸出は前年同期比で107.9%増の387億ドル、自動車部品の輸出は15.4%増の363億ドル、両者合計で750億ドルにのぼる。輸出全体に占めるシェアは繊維製品・靴類が10.4%、自動車及び部品が5.4%、両者の差は急速に縮小している。言うまでもなく、自動車及び部品の輸出は繊維製品・靴類を上回り、中国の輸出を支える最大の成長産業となるのは時間の問題だと思われる。
「クリティカルマス(臨界点)」を超えた中国の電気自動車産業
労働集約型製品から技術・資本集約型製品への輸出シフトは中国政府の電気自動車(EV)産業育成政策と切っても切れない関係にある。
中国の電気自動車産業育成政策を論じれば、「中国EVの父」と呼ばれる元科学技術相の万鋼氏が果たした役割を言及しなければならない。
万氏は1985年にドイツに留学し、工学博士号取得後、1991年に現地の大手自動車メーカーアウディに就職し、幹部社員まで昇進した。彼の実績と能力を高く評価した中国政府ミッションがドイツを訪問した際、「中国にはあなたのような人材が必要であり、ぜひ中国で活躍してほしい」と説得され、帰国した。10年間のアウディ勤務を経て、中国に帰国すると、彼は上海同済大学の自動車先端技術研究センター長に就任した。その後、同済大学の学長を経て、2007年に科学技術相に抜擢された。現在は中国政治協商会議副議長、中国科学技術協会会長を務めている。
帰国後の万鋼氏は自動車先端技術の研究に没頭し、大きく遅れた中国自動車産業の現状を変え、日独など自動車王国に追いつき、追い越すには電気自動車産業の育成しか道がない、という結論に至った。その後、万氏は自ら中央政府に電気自動車産業育成政策を提言した。科学技術相に就任すると、万氏は翌年の2008年にアメリカを訪問し、旧知のテスラCEOマスク氏に会った。テスラ本社の近くで同社が発売したばかりのEVも試乗した。テスラ訪問を通じて、万氏は中国独自の電気自動車を開発・発展させる決意を固めた。
万氏が積極的にブッシュした結果、中国政府は2009年に電気自動車産業育成政策を決定し、2010年からEV購入補助金制度を導入した。11年に中国は国産メーカーのEV車を8159台も販売した。以降、中国政府はEV生産と消費の両サイドに政府補助金制度を投入し、電気自動車産業の育成に注力してきた。
その結果、中国のEVを中心とする新エネ車の生産と販売は爆発的な成長をもたらした。新エネ車の生産台数は2015年の34万台から22年の705万台へ、販売台数は33万台から688万台へ、両者とも20倍増となっている。新車販売全体(2686万台)に占める新エネ車の市場シェアは25.6%に達する。
米経営学者エベレット・ロジャーズの著書『イノベーションの普及』によれば、新しい技術が一気に広がる目安はシェアが「16%超」だ。20%に達すれば、「クリティカルマス(臨界点)」を超える可能性があるという。2022年時点で、EVなど新エネ車の市場シェアは既に「クリティカルマス」を大きく超過したため、中国のEV産業は爆発的な成長期に入る可能性が極めて高い。
2023年1~5月のデータは上記見方を裏付けている。中国汽車工業協会の発表によれば、同期の新エネ車の販売台数は前年同期比46.8%増の294万台、市場シェアが27.7%。うち、5月の販売台数は71.7万台、前年同期に比べれば60.2%増となり、市場シェアが30.1%にのぼる。
EVなど新エネ車の輸出も同様の方向性を示している。今年1~5月、中国自動車の輸出台数は175.8万台で、前年同期に比べ81.5%増となっている。うち、新エネ車の輸出台数は前年同期比で1.6倍増の45.7万台、自動車輸出全体の26%を占める。
中国汽車工業協会によれば、今年1-3月に同国の自動車輸出は107万台、長年世界一だった日本を上回った。22年は年間311万台で2位ドイツを凌ぎ、今年は日本を上回り世界一になる可能性が高いと見られる。
EV産業は次の成長産業となり、中国の輸出拡大を支える。「クリティカルマス(臨界点)」を超えた中国のEV産業は、日本にとって大きな脅威になることも予想される。
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