先月、11月12日(水)~18日(火)の一週間、私は第50回経団連洋上研修に講師として参加しておりました。
洋上研修への参加は今回で9回目なのですが、毎回大きな発見と学びがあります。現場改善とも共通点が多くあるので、今回はそこで学んだことを書かせていただきます。
これまでの洋上研修は49回すべて台湾などの海外に寄港していましたが、50回という節目の今回は岩手県釜石港に寄港するという、初めての国内での活動となりました。今回のテーマは「東北から明日の日本を切り拓く」です。
「一週間という長い時間を船の中でどう過ごすのか」ですが、真ん中の1日は4グループに分かれて岩手、宮城の被災地を視察しました。そして、前半と後半の3日間は洋上研修の特徴である、船内での外部との関係を遮断された缶詰状態での研修です。
そこではまず名誉団長の大宮英明三菱重工会長や明治大学の野田稔先生、多摩大学の浜田正幸先生、そして私といったアドバイザーや講師たちからの講義の時間があります。そして、6~7名のグループでのディスカッションを通じての発想・思考能力やまとめて表現する能力のトレーニングです。
講義の内容ですが、大宮名誉団長からは三菱重工社長時代に実行されたMRJ(国産旅客ジェット機)に代表される大プロジェクトの背景にある社内改革のお話がありました。世の中の変化に先んじて行われた「平時の改革」を自ら実行されたトップリーダーからじかに聞き、団員は大いに勇気をもらいました。
私も、直前の日経ビジネス誌の特集で三菱重工における改革を読んでその困難を知っていましたので、目の前で穏やかにお話をしておられる方がその人だということで、リーダーの本質とは何かを実感しました。
明治大学の野田先生からは、求められるリーダーシップが以前よりはるかに高いレベルに変わってきているという講義がされました。
すなわち、以前はするべきことは決まっているという前提で、モチベーションの高いチームを作って、全員が一丸となって成果を達成することがリーダーの役割とされていましたが、現在ではそれに加えて、何をどうやるかとなぜそれが必要かを自身で考えることも求められるということでした。
多摩大学の浜田先生からは、世の中にある不満とか不平とか不便といった「不」を追求することで、将来のニーズを発掘できるという講義がありました。
私も全員参加の改善を通じて、イノベーションを起こすという考え方をお伝えしました。
その上で行われた今回のグループディスカッションは、「東北から明日の日本を切り拓く」のテーマに基づき、被災地復興に貢献できるビジネスを自分たちで考え、起業する前提でその具体的な方法を6~7名のグループで作り上げるという内容でした。
私たちは毎日忙しく働いているのですが、多くの場合はこれまでの経験に基づいた反射・反応レベルで動きまわっていることも多く、果たして本当にしっかりと先を見据え必要な知識に基づいて考えているかというと、少々心もとないということがあると思います。
しかし、今回のテーマはまさに前例のない現在進行形なので、自分たちで調べて考えて議論して答えを導くしかないものです。参加した約100名の団員全員それぞれが持つ能力をフルに発揮して作業を進めました。
用意されたいろいろなデータを活用して現状を想定し、仮説を立案し、被災地の現場で自分の目で検証し、最終結論を導くという、まさに「考える」ということを実行されました。
プレゼンテーションもグループごとに工夫し練習したので、大変に説得力がある内容に仕上がりました。発表する側もされる側も納得のいく仕上がりでした。
(発表練習中の団員の皆さん)
それぞれの団員がこの一週間の研修で、すごい能力が自分の中にあったという発見をされたと思います。
そして、今まで気付かなかったけれど、これまでの仕事のやり方だけではいけないと確信されたことでしょう。私は講師の立場での参加でしたが、団員の皆さんの真摯な態度と、議論が目の前でどんどんレベルアップされるのを見て、これを日本の製造業のすべての職場で実現したいなあと心から思ったのです。
変化の激しいこの時代、過去の経験の延長線上だけに将来の答えを求めることは危険です。モノづくりにかかわる私たち全員でこれから進むべき新しい道を開拓していきましょう。
《経団連洋上研修》
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