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採用・法律

第129回 経営者が知っておきたいSOGIハラ、アウティングのリスク

中小企業の新たな法律リスク

高橋社長は、東京都でゲーム関連のソフトウェア開発を事業とするA社を経営しています。

最近、高橋社長は、ネットニュースで、「アウティング」により精神疾患を発症した男性が労働基準監督署から労災認定を受けたという記事を読みました。また、高橋社長は、同業の社長から「SOGIハラ」というハラスメントがあることを聞きました。

急に不安になった高橋社長は、賛多弁護士の法律事務所を訪問しました。

 

高橋社長:賛多先生、いつもお世話になっています。最近、「SOGIハラ」とか「アウティング」などの言葉を読んだり、聞いたりしました。性的マイノリティである従業員などに対する配慮が必要であることは分かるのですが、これらはどのようなものでしょうか。

 

賛多弁護士:社長も、LGBTQという言葉などを聞いたことがあるでしょう。最近は、従業員の性的指向や性自認などに対する企業の関心も高まっています。まず、「性的指向」とは、恋愛又は性愛がいずれの性別を対象とするか、をいうものであり、「性自認」とは、自己の性別についての認識のことであり、生物学的・身体的な性と性自認が一致しない方をトランスジェンダーといいます。そして、「SOGI」(ソジ)とは、性的指向(sexual orientation)と性自認(gender identity)の頭文字をとった略称であり、SOGIハラ(ハラスメント)とは、相手の性的指向や性自認に関する侮辱的な言動をいいます。例えば、「ホモ」「おかま」「オネエ」「レズ」などの表現がこれらに当たり得ます。また、「アウティング」とは、本人の同意なく、その人の性的指向や性自認に関する情報を第三者に暴露することをいいます。

 

高橋社長:SOGIハラやアウティングの意義は分かりました。これらの行為は法的にはどのように問題になるのでしょうか。

 

賛多弁護士:SOGIハラやアウティングは、職場におけるパワハラに該当し得ることがいわゆるパワハラ防止指針(令和2年厚生労働省告示第5号)で明確にされました。すなわち、改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)は、令和2年6月からは大企業、令和4年4月からは中小企業でもパワハラ対策を義務づけたところ、職場におけるパワハラは、パワハラ防止指針において、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいうとされました。そして、同指針では、「人格を否定するような言動を行うこと(相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む。)」は職場におけるパワハラの一類型である「精神的な攻撃」に該当すること、「労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。」は一類型である「個の侵害」に該当することが明記されました。

 

高橋社長:そうですか。SOGIハラやアウティングが禁止されており、違法となり得ることが明確になったということですね。当社としては、どのような対策をしたらよいのでしょうか。

 

賛多弁護士:対策についても、パワハラ防止指針が参考になります。同指針は、事業主に対して、職場におけるパワハラを防止するため、①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発、②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応などを講じることを義務づけています。これらの対応は、SOGIハラ、アウティングにも求められます。

 

高橋社長:①事業主の方針等の明確化及び周知・啓発としては、例えば、どのようなことをしたらよいのでしょうか。

 

賛多弁護士:就業規則にも、従業員の服務規律として、性的指向や性自認に関するハラスメントを禁止する規程等を盛り込み、その旨を従業員らに周知すべきでしょう。具体的な規程例は、厚生労働省の「モデル就業規則」(第15条、001018385.pdf (mhlw.go.jp))などにも掲載されていますので、これらを参考にしてください。

 

高橋社長:②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備としては、どのようなものがありますか。

 

賛多弁護士:既に御社には、パワハラ相談窓口が設置されていますが、同相談窓口でSOGIハラなども対応できるように窓口の担当者に対する研修を行い、また、SOGIハラなどの相談も受け付けることを社内に周知すべきでしょう。

 

高橋社長:①、②のような対策を取っていたにもかかわらず、実際にSOGIハラやアウティングが起きてしまった場合はどうすればよいでしょうか。

 

賛多弁護士:③事後の迅速かつ適切な対応が求められます。まずは、迅速に、相談者(被害者)と行為者の双方から事実関係を聴取する必要がありますが、その主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないときは、他の従業員などの第三者からも事実関係を聴取することも検討すべきです。これらの調査の過程においては、性的指向や性自認は、被害者のプライバシーに含まれることを理解し、その心情にも十分に配慮して、決して、二次被害を発生させてはなりません。調査の結果、パワハラに該当し得るSOGIハラやアウティングの事実が認められた場合は、行為者に対する措置を適切に行う必要があります。被害者保護の観点からは、行為者を異動させることが必要である場合が多いと思います。また、行為の内容・程度によっては、行為者に対する懲戒処分を検討する必要もあります。

 

高橋社長:分かりやすく説明していただいて、たいへんよく分かりました。当社でも、早速、SOGIハラ、アウティングなどを発生させないための体制を作っていきます。賛多先生、具体的に社内の規程等を作成する際には、また、相談させていただきます。

* * *

 LGBTQなどの性的マイノリティに対して配慮すべきことは既に社会において定着したといえ、SOGIハラ、アウティングが発生した場合に、「知らなかった」「悪意はなかった」などの弁解はもはや通用しません。高橋社長も述べていたとおり、令和4年3月、都内の保険代理店に勤務していた男性が精神疾患を発症した原因は、職場で同意なく上司によって個人の性的指向を暴露されたアウティングにあるとして、労働基準監督署が労災を認定しました。性的指向や性自認に関する理解の増進に努めることを事業者の責務とする条例を設けている自治体なども複数存在します。

 

 人材難と言われる昨今、このような性的マイノリティに対する配慮、体制の整備の有無が優秀な人材の確保、定着にも少なからず影響を与え得ると考えます。

 

 先進的な企業の取組事例などをまとめたものとして、「多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集~性的マイノリティに関する取組事例~」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング、職場におけるダイバーシティ推進事業_事例集 (mhlw.go.jp))などがあります。これらの取組事例なども参考にして、自社の規模、実情等に即した規程、制度などを構築すべきであると考えます。

 

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 橋本浩史

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