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- 中小企業の新たな法律リスク
- 第33回 『新型コロナウィルス感染拡大を理由に従業員を解雇できるか?』
都内で飲食店を経営している山本社長は、新型コロナウィルスの感染防止のための外出自粛により売上が激減し、従業員を解雇せざるを得ないと嘆いて、賛多弁護士に相談に来られました。
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山本社長:うちはもともと採算がぎりぎりでやってきたのですが、新型コロナの影響で、もうお客様が激減して営業を続ければ赤字が膨らんでいる状態です。すでに運転資金も底をつきそうで、このまま従業員の給料を払い続けると倒産してしまいます。そこで、従業員数名を解雇せざるを得ないのですが、大丈夫でしょうか。
賛多弁護士:この新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、3月以降、社長と同じく事業の存続が厳しいという相談でお見えになる経営者が増えています。さて、ご相談の件ですが、経営不振を理由に解雇できるかという、いわゆる整理解雇の問題となります。
山本社長:当社は明らかに経営不振に陥っているため解雇ができるという理解でよろしいでしょうか。
賛多弁護士:ちょっとお待ちください。裁判例において、整理解雇が法律上有効と認められるためには、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続きの相当性という4つの要件を満たす必要があるとされています。
山本社長:解雇するのに4つもハードルがあるのですか。
賛多弁護士:はい。まず①の人員削減の必要性は、単に経費削減が必要だというのでは足りず、人員削減を行う高度の必要性が必要とされています。例えば、売上が一時的に減少した場合、経営者の報酬が維持されたままである場合、または解雇後すぐに人を雇用した場合は、この要件を満たさないとして、不当解雇と判断される恐れがあります。
山本社長:当社は、債務超過で資金繰りも厳しく、食材を仕入れるお金も厳しい状況です。もちろん私自身の報酬も暫く受け取っておりません。
賛多弁護士:そのようなひっ迫した状況であれば人員削減の必要性の要件を満たすと思います。
山本社長:次に②の解雇回避努力とは何をすればいいのでしょうか。
賛多弁護士:解雇は従業員の生活に大きな影響を与えることから、最後の手段でなければなりません。そのため経営者は、解雇を行う前に、時短勤務、一時帰休、希望退職者の募集を行うなどの他の手段で解雇を回避する方法がないかを模索しなければなりません。特に新型コロナウィルス感染症の影響に伴い売上が一定額を超えて減少した場合、当該事業者は雇用調整助成金を受け取れる可能性がありますので、解雇回避努力としてこの助成金の申請の検討も行うべきでしょう。
山本社長:なるほど、安易に解雇を選択するのは避けた方がよさそうですね。まずは従業員らに暫く休業してもらったり、雇用調整助成金の申請も検討したいと思います。
それから③人選の合理性、④手続きの相当性に関して何か気を付けることはありますか。
賛多弁護士:③の人選の合理性に関して、解雇する対象者を選ぶ際には、勤務態度、貢献度、正規か非正規、年齢などの客観的で合理的な基準を設けて人選することが重要です。④の手続きの相当性に関しては、解雇に踏み切る前に、従業員と十分に協議を行ったかがポイントになります。誠意をもって従業員に経営状況を説明、従業員からの質問に回答することで理解を得るように努めることが必要です。
山本社長:ありがとうございました。こんな状況でも解雇は慎重に行わなければならないということが理解できました。当社も大変ですが、できる限り解雇しないように従業員らと話し合いながらやっていきたいと思います。
賛多弁護士:この状況がいつ収束するか先が読めない中、山本社長だけではなく従業員の方々も大変な不安を抱えておられます。こういう時こそ皆さんが力を合わせてこの局面を乗り切っていただきたいと願っています。
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新型コロナウィルス感染拡大の影響によって、すでに倒産する会社や失業者が出てきています。政府から外出自粛の指示に伴い特に観光業や飲食店では売上が激減しており、経営悪化による人員削減に迫られる企業が増えています。
しかし、経営上の理由による解雇(整理解雇)は、裁判例によれば、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続きの相当性という4つの要件をすべて満たさない限り解雇が無効になるとされています(ただし、最近では「4要素」とし、それらの要素を総合的に判断するという枠組みを採用している裁判例も増えています。)。
したがって、新型コロナウィルスで売上が減少したという理由だけで、安易に整理解雇を行った場合には解雇が無効であると判断される恐れがあります。解雇に踏み切る場合には上記4要件(4要素)に照らして慎重に判断する必要があります。
なお、新型コロナウィルス感染拡大に伴い、経営基盤の弱い中小企業向けに様々な支援策が打ち出されています。雇用調整助成金もその一つであり、特例措置により適用要件が緩和され、支給額も手厚くなっています。解雇に踏み切る前にこれらの制度の活用も検討されてみてはいかがでしょうか。
<ご参考>
・雇用調整助成金 ◇新型コロナウィルス感染症について(厚生労働省HP)
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 北口 建