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【ブランディングの穴】本質を忘れたお化粧ブランディングは剥がれ落ちる

楠木建の「経営知になる考え方」

ブランディング(branding)よりもブランデッド(branded)

 顧客満足は最終的にはブランドとして結実する。どんな企業にとってもブランドというのは大切なものだ。ところが、何かと言うと「ブランディングが大切だ」という話になる。僕は「ブランディング」という考え方に対しては、やや懐疑的だ。「さあ、ブランディングをするぞ!」という色気が、かえって商売をゆがめたり弱めたりすることがあるのではないかと思っている。

 毎日の商売のなかでの顧客満足の積み重ねで段々と信用ができて、振り返ったときにその総体がブランドになっている――あくまでもこれが理想的な成り行きだろう。つまり、ブランディング(branding)よりもブランデッド(branded)ということだ。

 

“お化粧ブランディング”は剥がれてしまうもの

 ブランディングに血道を上げる会社というのは、手っ取り早くブランドを手に入れたいという欲が前面に出てくる。何をやるのかというと広告プロモーション予算を組んで知名度を上げよう、インフルエンサーを使ってバズらせよう――それがブランディングだ、となりがちだ。

 特にBtoCのビジネスでは、お金を出せば明日からでもYouTubeとかインスタグラムとか、いかにもブランディングに効きそうな手法がたくさん用意されている。予算を組んでブランディングの「専門家」を雇い、せっせとブランディングにいそしむ。ところが、これをやり出すと、商売の内実に磨きをかけるよりも、手っ取り早くうまいことやろうという方向にどんどん流れてしまう。

 言うまでもないことだが、ブランドというのは顧客が認識したサービスの価値の総体だ。独自の価値提供がしっかりとできていない会社、そこに自信がない会社ほど、ブランディングというお化粧で勝負しようとする。ベースがしっかりしていないところにお化粧をしても、たかが知れている。お化粧は夜になれば剥がれてしまうものだ。

 

ブランディングのKPIは“お客様目線”か?

 「SNSでブランディング、がんがんやりましょう!」となると、いろいろな効果が数字で出てくる。KPIとして設定しやすいので、いくらでもやることがある。しかし、そのKPIが、肝心なお客さんの評価の中身を本当にとらえているのか。例えば、ツイートされた件数にしても、そのツイートで何が書かれていたのか、書いた人がどんな気持ちで書いたのかが、顧客の本当の価値認識のはずだ。

 ツイートをするお客さんの側も、本当にいいと思えばそれなりに感情がこもったツイートをしてくれる。そういうものが積もり積もってブランドになるわけだが、何か一撃必中のブランディングの飛び道具みたいなものを考え過ぎの人が多いと思う。「ステルスマーケティング」が時々問題になるけれども、そろそろウェブのマーケティングの曲がり角にきているという印象がある。

 

ブランドは「ご褒美」と割り切るべし!

 強力なブランドは大変な資産になる。商売が著しく楽になる。お客さんが選んでくれるし、より高いお金を払ってくれる。まことにありがたい話だ。ところが、ブランドというのは同義語反復――「何で強いのか、ブランドがあるからだ」、「何でブランドがあるのか、強いからだ」――に陥りがちだ。ブランドは顧客満足の原因ではなく、結果である。結局のところ、商売そのものを強くするしかない。顧客満足を積み重ねていくしかない。強力な商売が強力なブランドを結果としてもたらすわけで、何もブランドがあるから強いわけではない。この因果関係の理解が何よりも大切だと考える。

 商売を強くしたいからブランディングしようというのは、本末転倒だ。トヨタもアップルも、そもそも強い商品やサービス、オペレーションに独自の価値があったからからこそ、今日のブランドになったわけで、その逆ではない。ブランドというのは、顧客満足に向けた過去のあらゆる企業努力の蓄積から事後的に発生する「ご褒美」みたいなものだと割り切ったほうがよいと思う。

 「ご褒美」を先取りしようとして手練手管を連発しても、敏感なお客さんにはすぐに見破られる。一時的に「バズらせる」ことはできても、それは決して長続きはしない。「ブランドは忘れた頃にやって来る」というのが本当のところではないか。

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