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戦略・戦術

第213話 「少数株主からの買取請求を阻止せよ!」

強い会社を築く ビジネス・クリニック

 “非上場会社の少数株主のお悩みを解決します!”といった弁護士事務所の新聞広告を見る機会が増えてきました。
 “その株、高く買ってもらえますよ”というわけです。中小企業には、株式の数パーセントを保有している、いわゆる少数株主が存在する、という会社が山のようにあります。そこに商売のタネを見出した弁護士事務所が現れてきたのです。

 

1)取締役会の譲渡承認では守れない!

 新聞広告を見た少数株主からの買取要望があれば、それを受けた弁護士事務所は、株式発行会社に“株式譲渡承認請求書”を発行します。
 「A氏が保有する御社株式を一般社団法人Bへ譲渡しますので、承認をお願いします。」といった内容です。
 少数株主からの買取請求の話をすると、ほとんどの経営者はこう言います。
 「うちは定款に、株式を譲渡するには取締役会の承認を要する、と書いてあります。買取請求の要望が来たら、断っ たらいいじゃないですか。」

 しかし、これでは株式の譲渡を守り切れないのです。弁護士事務所から届いた“株式譲渡承認請求書”には、次のように書かれています。
 「この譲渡請求を承認しない場合は、会社が買い取るか、他の買主を指名下さい。2週間以内に回答がない場合、この譲渡請求は承認されたこととなります。」
 会社法には、「株式譲渡自由の原則」という条文があります。そしてそこには、こうも書かれています。
 「会社が譲渡を承認しない場合、会社が買い取るか、指定買取人による買取を求めることができる。」
 この期限が、「譲渡承認請求」が届いた日から2週間以内、なのです。少数株主からの依頼を受けた弁護士事務所は、会社法の法的措置を通じて、正当な手続きで攻めてくるのです。このこと自体、違法な事ではないのです。定款に書かれているのは、取締役会での承認が必要、ということだけです。売却できない、とは書かれていないのです。それを多くの経営者が、“譲渡承認があれば勝手に売却できない”と勘違いしているのです。
 会社は、少数とはいえ、知らない相手に株式譲渡されるのは避けたいです。そのため、譲渡承認請求が届けば、会社が買い取る、という選択をします。しかし、その時の買取価格を、弁護士事務所は原則的評価、つまり、時価評価で求めてきます。株価が高い会社はかなりの高額になるはずです。その高額買取による成功報酬を見込んだ、弁護士事務所の新たな商売なのです。

 

2)取得条項を付けなさい!

 2006年に新会社法が制定され、種類株式の内容が見直されました。新たに制定されたのが、「取得条項付き種類株式」です。
 会社にとって望ましくない形で、株式が分散してゆくことを防止するために誕生した株式です。定款にあらかじめ定めた条件に該当することが発生したとき、無条件でその株式は会社のものとなります。
 あらかじめ定める条件には、想定できることを複数記載します。その株主が従業員や取締役なら、例えば次のような条件を定めます。

 1)従業員・取締役の地位を失った時
 2)死亡した時
 3)逮捕・拘留された時
 4)株式を譲渡したとき
 5)株式の譲渡承認請求を行った時
 6)株式を担保に使用した時

 このような条件を定めた取得条項付き種類株式にしておくのです。そうしておけば、
 ・弁護士事務所から株式譲渡承認請求書が届いても、
 ・その株主が誰かに株式を譲渡したとしても、
その事実を会社が認識した時点で、その種類株式は会社のものとなります。取締役会の承認など必要ないのです。ただし、既存の株主が保有する株式を、取得条項付き種類株式に転換するには、全株主の同意が必要です。株主が分散しすぎているほど、ハードルは高くなります。それでも策はあるのです。

 「取得条項が発動して会社のものになる、ということは、会社はどのような価格で買い取ることになるのでしょうか?」
 といった質問を必ずいただきます。この買取価格をどうするか、ということも、取得条項付き種類株式を使う、大きな強みとなるのです。

 

3)買取価格を確定させておく

 この買取価格についても、取得条項付き種類株式の導入時に、定款に明記します。
 「相続税法上の評価額にて買い取る」と記載します。相続税法上の評価額なので、非同族であるなら、配当還元方式での算出額です。10%までの配当であれば、額面での買取、となります。
 この買取価格を明記してあれば、売る側は他の評価額での買い取りを請求することはできません。買取価格を明記していないと、売る側が非同族の者であったとしても、
 「配当還元方式で買い取ってもらうのはイヤだ!この会社の株価はもっと高いはずだ。すくなくともそれに近い金額でないと代金を受け取らない!」
 などというトラブルに発展する可能性が高くなります。

 行き着くところは裁判です。裁判になると、最終的に裁判官がその評価額を決めることになります。その場合の評価額はDCF法、ディスカウント・キャッシュフロー方式、となります。将来利益を見込んでの株価計算の算定式です。業績の良い会社なら、通常の時価評価よりもさらに高い株価となります。
 取得条項を発動した際の買取価格を、「相続税法上の評価額」と明記していれば、そのような争いにはならないのです。他の計算方法で、という選択肢はないのです。
 株式の評価額にはいくつかの計算方法があります。売る側は、できるだけ高く売りたいのです。しかし取得条項付き株式を活用して登記しておけば、
 「納得できない高額で株式を買い取らねばならない」
 という事態を避けることはできるのです。

 少数株主からの買取請求は、中小企業にとって新たな法務リスクとなりつつあります。しかしながら、多くの中小企業の社長はまだ、この法務リスクをよく理解されていません。リーガルマインド(法的思考)が弱いのです。
 備えあれば憂いなし、となるよう、自社の株主構成に応じて必要あれば、取得条項付きの種類株式を活用していただきたいのです。

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