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第6話「森を見て木を見ず」

楠木建の「経営知になる考え方」

“逆境先進国”日本で培われる力

 物事には悪い面もあれば良い面もある。商売はとくにそうだ。一見、悪いように見えても、他と比較すると良い面、恵まれている面も必ずある。たとえば、製造業企業は一般に円高を嫌うが、それは海外の企業を買収するチャンスでもある。

 日本はビジネスにとって逆境先進国だ。これまでの日本の歴史をみれば、逆境に耐え、克服する力は十分にある。もっといえば、これまでも逆境に立ち向かうことで、日本の企業の能力は錬成されてきたのである。「逆境なら任せておけ!」(経営学者、藤本隆宏さんの名フレーズ)、ここに日本の本領がある。

 政治がダメでも企業ははるかに自由に動ける。政治に依存して企業がよくなったためしがない。日本の経営者、企業人は自らの力で逆境を踏み越える気概を示し、政治に「ほら、こうやったらできるだろ!」という手本を見せつけてほしい。

 

「企業の利益」3つの源泉

 商売の追求すべき目標が長期利益の最大化にあることは言うまでもない。ただし、利益の源泉にはいくつかの異なったレイヤーがある。いちばんわかりやすいのは「景気」。景気が良ければ利益は相対的に大きくなり、景気が冷え込めば利益も縮小する。当たり前の話だ。

 たとえば、リーマンショックのようなことが起きて金融危機が発生すれば、景気が悪化し、その結果として個別の企業の利益水準も低下する。東日本大震災が起きた直後も景気が冷え込んだ。日本企業の多くが業績に負の影響を受けた。その後しばらくたつと、今度は復興需要が発生した。コロナでも同じことが繰り返されるだろう。

 第2の利益の源泉が「業界の競争構造」。第1の利益の源泉である「景気」は、程度の差こそあれ全業種に関係してくる要因だが、これに対して業界の競争構造は、業界ごとに異なる。そもそも儲かりやすい構造にある業界もあれば、はじめから儲かりにくい構造になってしまっている業界もある。収益性が高い業界の例として製薬業界がある。反対に、パソコン業界は、そもそも儲かりにくい構造になってしまっている業界の典型例だ。

 第3の利益の源泉が「戦略」だ。ここではじめて主語が個別企業になる。パソコン業界はその競争構造からしてきわめて位置エネルギーが低い。そこにいるだけでは儲からない。ソニーが不振だったパソコン事業を切り離してから7年。独立したVAIOは復活を遂げた。事業規模こそかつての水準とは比べものにならないが、営業利益率は10%を達成している。

 VAIOの利益は、どこから生じているのだろうか。答えは「戦略」だ。こうした企業の利益の源泉は個別企業の戦略という第3のレイヤーにまで降りてこないとわからない。

 

「景気」や「業界構造」に惑わされずに、自社の競争力を磨こう

 なぜある企業が儲かっているのか。その理由を説明するとき、多くの人は(おそらく無意識のうちに)「景気」や「業界構造」といった上のほうにあるレイヤーに注目してしまう。景気はいちばん上のレイヤーにある表層部分なので、「目立つ」し「わかりやすい」要因だ。日経新聞の最初の数ページは、毎日この種のニュースであふれている。しかも、平均株価や為替、景気指数などで「見える化」されているので、一発で動向がわかる。多くの人が企業業績との因果関係を意識する。

 それに比べて、深層にある「戦略」となると、正しい理解をしている人は格段に少ない。これは考えてみると不思議な話である。儲かっているとか儲かっていないとかいうとき、議論の対象となっているのはあくまでも個別企業だ。当たり前の話だが、個別企業(もしくは事業)こそが利益計算の単位である。

 利益の源泉の3つのレイヤーのうち、われわれが普通「経営力」とか「競争力」とか呼んでいるものは、一義的には3番目の戦略に関わっているはずである。他社との違いを明確にして、自社独自の戦略を打ち出して競争に打ち勝つ。それが経営者の仕事だ。

 「戦略」という言葉は便利でよく使われるが、それが実際のところ何を意味するのか、優れた戦略とはどういうものなのか、戦略が何ゆえ好業績をもたらすのか、こうした問題を日常から突っ込んで考えている人は、意外にもそれほど多くない。「木を見て森を見ず」というが、企業の競争力や収益性に関しては話が逆で、「森を見て木を見ず」になりがちだ。

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