2022年11月4日、手形・小切手の電子交換所がスタートした。その一方で、全国179か所にあった手形交換所は廃止となった。手形交換所は1879年 大阪に誕生以来、140年以上に亘って手形・小切手の決済する場として機能してきたが、手形・小切手の減少と電子化の流れの中で役割を終え、全国銀行協会が運営する全国統一の電子交換所に置き換わった。
電子交換所への変更は、下図の通り搬送方法を人手によるものからイメージデータの送受信へ切り替えるものであり、従来の手形・小切手は引き続き使え、利用する企業にとってマイナスは無いようである。
しかし今回の変化を機に、各金融機関は手形の廃止、小切手の電子化推進をいよいよ本格化させるものと見られる。未だに手形・小切手を利用している経営者は、待ったなしで電子化への切り替えを進めるべき時だ。
※全国銀行協会資料より
2026年度末までに手形・小切手ゼロへ
支払手形の残高はバブル期の1990年107兆円をピークに減少基調に転じ、足下では25兆円程度まで減少している。これは、成長投資で資金繰りが逼迫していた高度成長期から、バブル崩壊以降のデフレ経済へ移りゆく中で、多くの企業が投資を抑えて、逆に手元資金に余裕が生まれた事やコスト意識の高まりから手形での支払いを削減した事が大きい。また、インターネットバンキング(IB)や電子記録債権(でんさい)の普及なども進んできた。しかし、2009年以降は岩盤に突き当たっており、業種によっては若干の増加も見られる。
こういった状況の中で政府は、2026年度末までの約束手形の利用廃止と小切手の全面的な電子化の方針を出しており、今回の電子交換所への切り替えもその流れの一環である。
手形・小切手ゼロの目的は主に三つある。
- 下請企業に資金繰り負担を求める取引慣行の是正
- 「紙」を取り扱う事務負担、リスク負担の削減
- 企業間取引の電子化促進
下請企業への資金繰り負担の問題は、支払手形のサイトが長い事や割引料や利息を受取側が負担するケースが多いなど、下請保護の観点から手形取引を抑制する事が目的である。下請代金の支払いサイトは60日以内とする旨の「手形通達」(令和3年3月31日中小企業庁、公正取引委員会連名発信)も出されているが、手形そのものの廃止で実効性を高める狙いだ。
現物である「紙」の場合、手形の振出人、受取人、金融機関のそれぞれに おいて「紙幣」と同等の管理が必要となり、その過程では様々なコストとリスクが存在する。全国銀行協会の試算によると、紙の手形・小切手を用いる事による社会的コストは年間2,042億円費やしており、電子化した場合 ▲1,114億円が削減できるとしている。
企業間取引の電子化促進については、中小企業の生産性向上に向けてEDI(電子データ交換)を進める上で、紙の手形・小切手では完結しえないため、債権の電子化が必要である。
金融機関の動き
今回の切り替えのタイミングで多くの金融機関が手形・小切手に係わる手数料を改定している。
例えば、三菱UFJ銀行では手形帳や小切手帳の発行手数料を1冊(50枚)3,300円から11,000円へ大幅に値上げしている。他のメガバンクや千葉銀行、八十二銀行、栃木銀行などの地銀も同様で、手形・小切手の利用を抑制するような改定を行っている。一方で、電子記録債権(でんさい)の利用に対しては、キャッシュバックキャンペーンを行うなど電子化への切り替えを後押ししている。
このように従来の手形・小切手の利用は抑制し、電子化を促進する手数料体系の見直しは、全国銀行協会が行動計画として提唱しているものであり、これから更に広まる方向性である。2026年に向けて電子化への切り替えを着実に進めるためには、一段の値上げも想定される。
また、金融機関が取引企業を評価する上でも、今後は影響する可能性が高い。デジタル化、IT化の経営への取り入れや効率性、生産性が問われる中で、非効率でコストもかかる手形・小切手の利用を続ける事は、銀行が企業を評価する上で、マイナスとはなってもプラスになる事はないだろう。
電子化への切り替えは待ったなし
手形の廃止、小切手の電子化の流れは、政府が主導し産業界、金融界も本腰を入れて取組み始めており、これから更に強まる見通しだ。
とは言え、そう簡単にはやめられないという企業もまだまだ多い。
やめられない理由は様々であるが、深刻なのは資金繰りが悪化する事態。
手形支払いをやめて支払サイトを短縮するには、受取の回収サイトも短縮されないと自社の資金繰りにしわ寄せが来てしまう。つまりサプライチェーンの上流から実施しなければ、下流の企業は簡単にやめる事が出来ないのも現実だろう。
そういった意味からも上流に位置する企業は、率先して手形廃止、支払サイト短縮に動く必要があり、社会的責任も重い。
一方で下流に位置する企業も指をくわえて待っていれば良い訳ではない。下請法の後押しも活用して、上流企業に取引条件改善を要請することも出来るはずである。
周りがまだやめていないからとの消極的な理由で続ける事は、コスト的にも社会的な信用面でも得策ではない。取引金融機関とも相談して、計画的に手形・小切手の利用から電子化への切り替えを進めていただきたい。