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戦略・戦術

第203話 「投資育成会社に株式を持たすのはやめなさい」

強い会社を築く ビジネス・クリニック

私の顧問先には、優良会社が多く、反面、どの会社も株価対策には頭を悩ませています。

 

そこで、経営者とときどき話題になるのが、「投資育成会社」の存在です。

 

ときどき、顧問先からも相談を受けます。

「先生、投資育成会社ってご存知でしょうか?実は、先日、会社までお越しになったんです。それで、要件は、わが社の株を持っていただけるそうなんです。なんでも、事業承継対策として、有効だとか。」

 

「会長、投資育成会社に株式を持ってもらっている顧問先は、私の周りにも結構あるんですよ。ただし、持ってもらったのは、最近じゃなくて、ずっと前からなんですけどね。でも、大きなメリットを感じている先は、ないですね。」

 

「そうなんですか。でも、私が持っている株式の20%だとかを、投資育成に持ってもらえば、その分、私の株数は減って、相続対策になると思うのですが。。。」

 

「確かに株数は減りますが、会長の株式のことについては、これから考えていけば、もっと良い対策がとれますよ」

 

そもそも、投資育成会社というのは、どういう会社なのでしょうか?

 

投資育成会社は、今から60年前に、「中小企業投資育成株式会社法」という法律に基づいて設立され、日本のベンチャーキャピタルの草分け的存在と言われています。

 

ベンチャーキャピタルとは、将来的に高い成長が見込まれる未上場企業に投資する会社です。

今風にいうなら、ファンドですね。

ただし、ファンドのように、短期間で売り買いするわけではなく、一度投資すると、長い間持ち続けます。中小企業には上場を求めず、継続した配当が求められます。

 

東京、名古屋、大阪の3つの拠点にそれぞれ投資育成会社があり、現在では国の関与は弱い特殊会社という扱いになっています。

特殊会社は、法人税、固定資産税がかかりません。

 

東京中小企業投資育成会社の決算書ですが、2022年3月期で総資産1,163億円純資産1,035億円自己資本比率は、なんと89%!

売上44億円、営業利益25億円、税引前利益26億円、法人税ゼロ!

 

凄い数字ですね・・・

 

優良会社に絞って投資を行い、「割安の株価で」株式を引き受け、毎年利回り10%以上の配当を、安定して継続的に受け取ります。

決算書も、自然と良くなりますね。

 

改めて、投資育成会社のメリットは、

非常に安い金額で、わが社の株価を引き受けてもらうため、オーナーの株価(相続財産)が減らせること

※厳密には、とても安い金額で株数を発行して(増資)、全体の株数を増やすことで、オーナーの持株割合(=株価)が減ることになります

 

投資育成会社に株式を持ってもらえれば、対外的に信用度がアップすること

 

安定株主としてオーナーに寄り添ってくれる

この3つは、確かにそういう面もあるでしょう。

 

しかし、以前、顧問先で、オーナーに拒否権付株式(黄金株)を付けようとした際、投資育成会社から猛烈に反対されたことがあります。

 

オーナーからすると、後継者が暴走しないように見守りたい、ということで、黄金株を設定しようとしたところ、

「そんなことをされたら、私たちが持っている株式の意味がなくなる!」と現場の担当者から強く反対されたのでした。

 

結果的には、時間をかけて、投資育成会社の取締役と面談することで、事なきを得たのですが、事業承継のために、資本構成を大きく変える、という場面では、決して安定株主ではないのです。

 

また、確かに、投資育成会社に株式を引き受けてもらうときは、かなり低い株価で引き受けてもらえます。

 

一番の問題はこの後です。

 

顧問先の例でいえば、昔20年ほど前に、1株500円で引き受けてもらいました。

その際、オーナーが質問したそうです。「ちなみに、将来、投資育成さんから買い戻すようなことがあれば、その際は、500円でいいんでしょうか?」

 

投資育成会社の担当者の返事は、「はい、500円で結構ですよ。」

確かにこのように聞いた記憶があるそうです。でも、契約書にはどこにも、将来500円で買い戻すとは書いてません。

 

オーナーは言いました。「いやいや、確かに聞いたんだ。間違いない。」

 

じゃあ聞きに行きましょうということで、実際に投資育成会社に聞きに行きました。

「ん~、オーナーが昔、そのように約束されたといっても口頭ですからね・・・契約書にも書いていませんしね・・・当時どのようにやり取りされたかは分かりませんが、私どもとしては、500円でお売りするわけにはいきません。」

 

予想通りです。

買い戻すとなると、相当高額でないと買い戻せません。

 

入口はよいのですが、出口で苦労する。

それが投資育成会社なのです。

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