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国のかたち、組織のかたち(40) 鉄道は国営か民営か(中)

指導者たる者かくあるべし

 軍事利用から戦後復興の足へ

 奈良平野の中央部、近鉄大和八木駅から紀伊半島南端部の新宮市を結ぶ奈良交通のバス路線がある。十津川沿いに169.8キロを1日3往復の定期路線バスが走る。一般道を走るバス路線としては、日本一長いバス路線として有名だ。奈良を拠点に仕事をする筆者は、途中、熊野本宮大社近くにある先祖の墓を参るのに年に一度、利用している。

 この路線、元々は明治20年代に鉄道路線として計画された。戦前、戦後に一部が着工され、今も一部には放棄されたトンネル、橋梁が朽ち果てて残っている。ある時は木材の運搬用に、また、紀伊半島防備の軍事路線として鉄道の必要性がうたわれたが、急峻な山に囲まれた過疎地域を走り抜けるこの路線をがらがらのバスで走るたびに、戦前戦後の国鉄を取り巻く奇妙な歴史と採算性を度外視した経営の幻を見る思いがする。

 太平洋戦争末期の米軍による空爆で、官設官営の日本の鉄道も大打撃を受ける。しかし、鉄道の立ち直りは早かった。敗戦直後の1945年(昭和20年)9月には、鉄道復旧五か年計画が立案されている。焦土と化した日本の復旧に向けて、交通インフラとしての鉄道の重要性が認識されていた。さらに敗戦で復員した兵士たちに働く場を提供するために、巨大企業としての鉄道は大きな役割を果たすことになる。

 昭和23年8月には、職員数は62万人を超えている。日本最大の企業体となった。

 戦後の国鉄は「公社」という奇妙な経営体へ

 明治5年に官設官営の国営構想でスタートしたわが国の鉄道事業は、その後、幹線の民鉄を国が吸収する形で、鉄道省が運営する国家経営体として発展してきた。戦後もその体制が引き継がれたが、戦後日本を占領、統治したマッカーサーのG H Qは、世界の冷戦構図が深まる中で、超巨大企業の国鉄の国家経営を嫌う。鉄道省(その後運輸省へ)からの切り離しを図る。資本主義米国の鉄道は、すべて民営だ。

 一方で、G H Qは、公務員、鉄道の過剰人員を問題視し、人員整理を日本政府に突きつける。しかし、人員整理で労使の紛争が激化することも避けたい。とくに鉄道でストが頻発すれば、左翼過激派の温床となりかねないとの危惧をG H Qは抱いた。国鉄の場合、62万人の職員を50万強まで減員する方針を立てるとともに、各地で相次ぐ原因不明の鉄道事故を、人員整理に反対する左翼活動家のテロであると見せかける工作を行いもした。

 そして国鉄は、専売公社、電電公社とともに、「公共企業体」(公社)という奇妙な位置付けに置かれた。経営には、国費を投入して運営を国のコントロール下におきながら、職員には団結権と団体交渉権は認めるが、争議(ストライキ)権は認めないという奇妙な形を残し、日本国有鉄道(戦後国鉄)は、昭和24年6月に発足する。

 かさむ赤字と労使紛争

 国営のようで国営ではない。民営のようでいて民営でもない。経営計画、運賃の値上げも国会の承認が必要で、業績の対価としての賃金も国家公務員に準じると規定され、民間企業として持つべき自主性もない。こうなると、経営に活力が生まれるわけがない。経営陣も政治に振り回されて政治家頼みとなってしまう。鉄道省時代と同じく政治による新線敷設計画は採算を度外視して進められる。国鉄全体が官僚主義に陥り工夫が消えてゆく。

 やがて、モータリゼーションの波が押し寄せ、乗客数は伸び悩む。昭和39年、国鉄はついに赤字経営に陥った。皮肉なことに、世界に冠たる新幹線が開業した年のことだった。

 労使関係は悪化し、労働組合は、スト権を求めるとして違法なストライキを繰り返すようになる。 (この項、次回へ続く)

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※参考資料
『国鉄―「日本最大の企業」の栄光と崩壊』石井幸孝著 中公新書
『日本の歴史26 よみがえる日本』蠟山政道著 中公文庫

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