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マネジメント

第140回 『精神疲労を軽くする』

社長の右腕をつくる 人と組織を動かす

 
幸せなビジネスマンか、そうでないかの分かれ目は、
晩酌を口にしたときの第一声にある…という説がある。
 
夏ならば、キーンと冷えたビール。
冬ならば、アチチチ…といいつつ飲む熱燗だろうか。
とにかく、まず一杯。
 
 
このとき、
「ああ、疲れたぁ~」と、疲れを口にする人。
「ああ、うまいっ!」と、早くも疲れを忘れてしまっている人、、、
 
言うまでもなく、仕事が終わればすみやかに疲れていることも忘れてしまう
ノー天気派の方が、幸福度は高い。
 
いや、正しくいえば、実際には、
疲れを口にしない人の方が疲労度が低いということだ。
 
 
ビジネスマン多くが「疲れた」という場合の疲労は、ほとんどが精神的疲労である。
ところが、精神的活動だけでは人は疲れないはずだ…というから驚く。
 
どうやって実験をしたのかはわからないが、
作業中の肉体労働者から採取した血液には、疲労毒素や疲労生成物が満ちているが、
精神労働に従事する人の血を採って調べてみると、
脳を通過する前後で、血液の成分には変わりはない。
 
ようするに、精神活動では、血液中に疲労毒素が溜まることはない…というのだ。
 
そうはいっても、「根をつめた仕事(精神活動)をすると疲れる」ことは誰だって体験済みだ。
 
では、なぜ、疲労しないはずの精神活動で疲れを実感するのか?
 
アメリカの精神分析A・A・ブリル博士は、
「デスクワーク従事者の疲労の原因は、100パーセント、心理的要素である。」
といっている。
 
退屈や、正当に評価されていないという気持ち、無力感、あせり、不安などが
デスクワーカーを疲れさせ、風や頭痛、ときには胃痛や腸の不調に追いやっていくのだという。
 
中でも、疲労を招く最大の原因は緊張感だ。
 
全身をガチガチに緊張させているのと、全身がしなやかにリラックスしているのでは、
疲れの度合いはまったく違う。
 
緊張感をうまくほぐす方法を覚えれば、
少なくとも、デスクワーカーの疲労のほとんどは解消できるはずだ。
 
 
緊張をほぐす方法として、私がよくお話するのが、エレファント・テクニックである。
 
誰でも、象のような巨大なものを「食べろ」といわれれば、
たいていは、「あんな大きいもの、とても食べられないよ」と怖じ気づく。
 
だが、巨大な像でも、食べやすい大きさ(Bite Size)だったら、難なく口に入る。
 
もちろん、一度に完食はできないが、
「象を食べる? え? そんな理不尽な要求を突きつけられるなんて…」
といった、よけいな緊張感はなくなる。
 
そして、一か月、二か月、三か月……、長く仕事をしているうちに、
象なんぞ、何頭分を食べてしまったかわからないというほどの仕事をこなす。
 
しかも、過剰な緊張感も、もちろん、理不尽な要求だというような不快感も無しにである。
 
 
デスクワーカーに必要なのは、
一見、どこから着手すべきかわからない、とてつもない大仕事だと思われるような仕事を、
楽々こなせるBite Sizeに分解し、それをこなした後、
再度、エレファントにまとめあげる能力である。
 
わかりやすくいえば、例えば、英語の単語を4000語覚えろといわれれば、
「そんな、、、ムリに決まっている、、。」と、ハナから拒絶してしまうだろう。
そして、「それでもやれ」といわれれば、極度に緊張し、反発も覚える。
不快にも思い、疲労感が全身を満たし、試みる前から疲れ果てているという状態におちいる。
 
ところが、
「一日に10語覚えればいいんだ。そうすれば、
 一年に3650語、 4000語もそれほど無理難題ではない」
と考えてみたらどうだろう。
 
Bite Sizeとは、大きな仕事をNanageable Piece(処理し易い大きさ)に分けるという意味でもある。
こんなふうに取り組めば、どんな仕事もドンと来い!という心境になり、疲れ知らずになるはずだ。
 
 
古代ローマが、地中海全域から対岸のエジプトまで次々と征服し、
帝国の勢力を伸ばしていった戦略もまさに、エレファントテクニックであった。
 
統一後も、各都市ごとに自由な権利をある程度認め、従軍の義務のみを負わせて統治したのだ。
一気に大国を統治しようとすれば力に余り、たちまち破たんが生じることを恐れてのことである。
 
シーザーはこの戦略を、Divide and Conquer(分割し、征服する)といっている。
 
 
 

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