人口減による労働力人口の減少は、どの業界にとっても深刻な問題です。厚生労働省の推計によれば、2045年の労働人口は、2025年と比較して約2割減少するそうです。
それに対して建設業界への就職希望者は年々減少し、このままいけば、2045年には、建設技能者の数は2割どころか半分にまで減少すると予想されています。
建設業界は、そうした状況をどのように改善しようとしているのでしょうか。また、建設業界の人手不足は、私たちの仕事や生活にどのような影響を与えるのでしょうか。芝浦工業大学建築学部教授 蟹澤宏剛(かにさわ ひろたけ)さんに伺いました。

蟹澤宏剛(かにさわ ひろたけ)芝浦工業大学建築学部建築学科教授。博士(工学)。専門は、技能者問題や建設業の産業構造、諸外国の生産システム研究など。国土交通省 CCUS処遇改善推進協議会・会長、一人親方問題に関する検討会・座長、建築BIM推進会議・委員、厚生労働省 労働政策審議会・専門委員などを歴任。著書に『建築生産―ものづくりから見た建築の仕組み』(彰国者)『住まいづくりのこれから 〇〇大工 NEO工務店 シン旦那』(新建新聞社)などがある。
建設業界を取り巻く環境
―—最近、老朽化したインフラの整備などが話題になっていますが、まずは建設業界に対して、どのような需要があるのか教えて下さい。
いろいろな研究所が予測していますが、10年単位くらいの中期的なスパンでみれば、建設需要は、それほど落ちないでしょう。インフラについては、高度経済成長期に作ったものがどんどん更新期に入っているので、需要が激減するという環境ではないと思います。
――むしろ増えているとか?
増えるという予想はないんですよ。老朽化したからと、全てのインフラを整備するわけではありません。人口減が進んでいるからです。「この橋はあまり使わないから閉鎖しよう」など取捨選択していく中で、人口減に合わせた規模でインフラが維持されていくのではないかと思います。一方で災害に対する強靭化などに対する需要も高いですね。
――建設業界での人手不足は、いつ頃から顕著になったのでしょうか。
1900年代後半からずっと減少基調です。特に2000年代初めくらいは大きく減りましたね。建設業界は高度経済成長期に大勢の人を雇ったのですが、その人達が引退時期を迎えたからです。一方で新規入職者が減ったため、一気に人手不足が加速したのです。
業界の魅力を高める取り組み
――建設業界の人手不足は、具体的には、どのような問題を引き起こすのでしょうか。
直近では工事費が上がりすぎて作れないという問題が出てきました。材料費の高騰に加えて人手不足で人件費も高騰しているからです。地方では、技術者が足りないために、受注できないといったケースもあります。
――技能者と技術者はどうちがうのですか。
技能者は専門的な技能を持った「職人」で、技術者は、施工管理技士など国が定めた資格保持者。各現場で、どんな資格を持った人をどれだけ配置しなくてはいけないと決まっています。配置できなければ受注もできないわけです。
――ところで、バブルの頃、鉄筋工の給料が高いと紹介され、女性もどんどん建設業界に入っていったという記憶があるのですが、今は、こういう職種も人気がないのですか?
当時は1日3万円くらい稼げました。しかし、2010年頃には1万円台に下がってしまいました。このような賃金の低下は鉄筋工に限ったことではありません。これでは新たに建設業界を目指そうとは思わないでしょう。そこで、2010年くらいから、官民が一体となって待遇改善に取り組むようになったのです。
――具体的には、どのような取組みを?
最初にやったのは社会保険の全員加入。建設業界は、社会保険に加入していない人が大勢いたので、まずはそこから手をつけました。合わせて日給制から固定給化も進めてきました。法律も改正され、現在は、社会保険に入っていないと建設許可はもらえません。数年前には、建設キャリアアップシステムもスタートしました。
職人さんたちが自分の職歴を登録し、技術と経験に見合った所得を得られるようになることを目指したシステムです。技能レベル別の賃金モデルも示しており、すでに170万人の建設技能者が登録しました。今年度中には先般改正された建設業担い手三法という法律も全面的に施行され、労務費がそれなりの額になる「標準労務費」も設定されます。このような取組みは、少しずつ成果をあげてきています。
――他にはどんな改革を?
働き方改革ですね。かつては休日は日曜日だけでした。昔気質の人の中には「職人は休むよりも働けるだけ働いて稼ぎたいと考えるものだ」と公言する人もいますが、今はそういう時代ではない。4週6休が当たり前。
公共工事や大きな現場は4週8休も増えてきました。また、女性の建設技能者が快適に働けるように建設現場に、更衣室や女性用トイレ、さらにウォシュレットまで備えるところもあります。このような新しい考え方への切り替えにも力を入れています。
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