人手不足が私たちの生活に与える影響
――私たちの生活にもっとも身近な住宅についてはどうでしょう。
住宅では大工不足という非常に深刻な問題を抱えています。大工の数は、2045年より10年早い2035年に半分になってしまいます。2045年には3分の1、ピーク時に比べればたった1割です。65歳未満の人数で言えば、現在の21万人から6万人に減るわけです。
――そんなに減っている割には、家が沢山建っているような。
それは住宅メーカーがものすごく合理化を進めてきたからです。それまで大工が数日かけて材木を削ったり、穴をあけたりしてきました。それを工場であらかじめカットすることで、同じ作業を数時間でできるようになったのです。このような工夫の組み合わせで、家が建つスピードは3~4倍になりました。大工の数が減った分、スピードをあげることで対応したのです。
一方で、大工の仕事はプレカットされた材料をとりつけるだけの単純作業になり、せっかくの技術力を活かす場がなくなった。結果として労働の付加価値は下がり、儲からない仕事になってしまったのです。
――それが大工の激減につながっているわけですね。私たちの生活には、どんな影響が?
長く住んでいると雨漏りをしたり、トイレが壊れたり、いろいろな問題が起きてきます。地震や台風など自然災害で屋根が壊れたり、床上に浸水することもあるでしょう。そんなトラブルが起こっても、なかなか修理に来てもらえないという状況になります。すでに1年たっても修理してもらえないようなケースが出始めています。
――確かに、大工さんがいないと大変なことになりますね。
そもそも、どこに修理などを頼んだらいいいのかすら分からない。だからといってインターネットで探すのはリスクがあります。早く修理をして欲しいという焦りにつけこむ悪徳業者が少なくないからです。
――どう備えればいいのでしょうか。
普段から、何が壊れたらどこに連絡すると、ある程度決めておく必要があります。でも、一番いいのは、先祖返りになりますが、昔のように近所の建設会社で家を建て、その家が長持ちするように建設会社が見守っていく。そんな関係が復活することでしょう。
子どもの成長に合わせて少しずつ家を完成させていく、必要に応じて家具を作る、そんな展開も可能になります。合わせて大工の社員化も進展するでしょう。また、地域の建設会社は修理やリフォームを受けるだけではありません。地域で大きな役割を担っています。
――どのような役割ですか。
たとえば災害などが起こった時。真っ先にかけつけ道路などを通れるように片づけたり、除雪作業をしているのは地元の建設業者です。彼らが道を通れるようにしてくれるから、自衛隊などが入ってこられるわけです。ところが地場の建設業者はどんどんつぶれたり廃業している。能登では建設業者が少なくて対応できないため、県外の業者が相当数応援に入っています。
――主な廃業の原因は何ですか。
もっとも大きな原因は後継者がいないことでしょう。いくつかの調査資料を見ると、後継者がいない建設会社が3分の1、その多くが廃業を覚悟しているそうです。あとは資金繰りの悪化、人手不足倒産が主なところでしょう。最近は、価格が上がり過ぎて、うまく転嫁できなかったというケースもあります。
――各地域の建設会社が生き残っていくポイントはあるのでしょうか。
最近は、大手のゼネコンなどが、地方の工業高校まで採用の触手を伸ばしているので、地域の建設会社は採用でも厳しい立場に置かれています。待遇面ではとても大手にかないませんが、まずは休日をきちんととるとか、できることは、積極的に取り組んでいくことが大切です。その上で、デザイン性にこだわるとか、自然素材にこだわるとか、やりがいを感じるような仕事や働き方を提示できれば、若い人が集まってくるはずです。
実際、そういう会社はいくつかあります。あとは、社員教育など一緒に活動するような仲間を探すことでしょう。1社で投資するのが難しくても、数社集まれば、いろんなことができるようになります。同じ地域内のケースもあれば、地域外でネットワークをつくって成功しているケースもあります。
――私たちが心がけるべきことはあるでしょうか。
まずは、法律を守っている会社が建てた建築物は、守っていない会社よりも割高になる。こうしたことを、まず、当たり前だと受け入れることが大切でしょう。
また、マンションなどに入居するのを新年や年度初めにこだわらないといった寛容さも必要でしょう。このようなちょっとした配慮が、建設技能者の雇用環境を好転させることにつながり、ひいては大工をはじめとした建設技能者不足の解消につながるのです。
――本日はありがとうございました。(聞き手/カデナクリエイト 竹内三保子)

蟹澤宏剛(かにさわ ひろたけ)
芝浦工業大学建築学部建築学科教授。博士(工学)。専門は、技能者問題や建設業の産業構造、諸外国の生産システム研究など。国土交通省 CCUS処遇改善推進協議会・会長、一人親方問題に関する検討会・座長、建築BIM推進会議・委員、厚生労働省 労働政策審議会・専門委員などを歴任。著書に『建築生産―ものづくりから見た建築の仕組み』(彰国者)『住まいづくりのこれから 〇〇大工 NEO工務店 シン旦那』(新建新聞社)などがある
ビジネス見聞録WEB 2025年10月号 目次
・p1 収録の現場から 〈大竹愼一「2025年 秋からの最新経済予測」音声講座〉
・p2 講師インタビュー【HD化を活用し、経営のメリットを最大化せよ!】江幡吉昭
・p3 今月のビジネスキーワード「建設業界の2025年問題」
・p4 令和女子の消費とトレンド「“夏拡張”で変わる令和女子の消費動向」
・p5 展示会の見せ方・次の見どころ
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