◆軒先.COM◆
「手軽に利用できる仕組みを整える」
工事が延期になっている建設予定地、借り手のいない駐車場、ビルの入口や周辺にある空きスペース……。都心部を歩いていると、こうした空き地をたくさん見つけることができる。
食の移動販売をしている事業主にとって、このデッドスペースはありがたい存在だろう。路上営業の取り締まりが厳しく、場所を借りざるを得ない面もあるが、オフィス街や繁華街の空き地をうまく確保できれば、出店費用を抑えつつ一等地で商売ができる。実際、ランチタイムに大繁盛している移動販売車は珍しくない。ブームは去ったといわれるが、繁盛店を生み出すひとつの形として、今後も廃れることはないだろう。
ところで移動販売の事業主は、こうしたデッドスペースをどう確保しているのか。彼らが利用しているのは、2008年に開設された「軒先.com」だ。
このサイトは、デッドスペースの短期貸しを仲介する、日本初のポータルサイトである。空いている場所を貸したい地主や経営者が100社以上登録していて、利用者を募っている。スペースの総数は、東京を中心に、約300カ所。冒頭で述べた駐車場や空きスペースの他、商店街に増えつつある日貸し・週貸しの店舗、定休日の店の軒先、ビルの屋上、ホテルのロビーの一角など、バラエティに富んでいる。
利用希望者は、無料で会員登録すると、これらのスペースの多くを、1日数時間から使うことができる。1回につき数千円で利用できる場所も少なくない。東京の賃料を例にあげれば、自由が丘のマンション前にある屋外スペース(約12畳)は平日なら9時間・5000円、恵比寿の4畳ほどの駐車場は日中3.5時間・3500円で利用できる。
申し込みの際には必要書類を提出する必要があるが、地主との交渉は軒先.comが代行してくれる。希望者は、手軽にデッドスペースが借りられるわけだ。
このサイトのアイデアを考案したのは西浦明子さん。きっかけは、自身が、南米雑貨のネットショップの開店を企画したことだ。そこで、事前にテスト販売をしたいと考え、都心で数日間だけ開店できるスペースを探していた。
ところが、ネットで検索しても情報はわずか。商店街の週貸し店舗をいくつか見つけたが、どこも賃料は高額だった。たとえば、東京・目黒のある店舗は、わずか3坪で賃料は週21万円。しかも、半年先まで予約で埋まっていたそうだ。次に、繁華街の小さな空き地を探し、地主にかけあったが、許可を出してくれる人はいなかった。
この経験から、西浦さんは、「短期貸しのスペースは圧倒的に供給が足りない」「一見の人が借りやすいインフラが整っていない」ことに気づいたという。そこで、ネットショップから、スペース貸しの仲介サイトの立ち上げに切り替えたわけだ。
開設当初は、場所を使いたい人が順調に集まる一方、貸したい人が不足していた。貸し手の登録は無料だが、前例がないだけに、自分の土地が貸せるとは誰も思わなかったわけだ。そこで、空き地という空き地を足で探し、飛び込み営業でコツコツ貸し手の登録も増やしたという。
こうして貸しスペースが増えると、利用者も着実に増加。開設から3年が経った今は、月平均で300~350件の成約があるそうだ。
最も人気があるのは、移動販売車が停められる空き地や駐車場だが、その他の場所も、利用者がついている。たとえば、ホテルのロビーや定休日の店の軒先は、プロモーションをしたい通信会社やカード会社、テスト販売をしたい地方の業者などが利用するそうだ。また、1坪程度しかない屋外スペースでも、物販業者の他、作品を展示するアーティストの卵などが利用しているという。デッドスペースを手軽に利用できる仕組みをつくることで、「軒先.com」は、さまざまなニーズを掘り起こすことに成功したといえるだろう。
商店街の空き店舗を用いたチャレンジショップ制度は全国に普及しているが、利用のハードルが高いものも多い。さらに手軽に開店できる仕組みも揃っていれば、潜在ニーズを掘り起こし、繁盛スポットづくりにつなげられるかもしれない。(カデナクリエイト/杉山直隆)
◆社長の繁盛トレンドデータ◆
軒先.com
東京都目黒区緑が丘2-7-11
TEL:03-3725-8890
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