「率直にいえば、我が国の銀行は利益を得るのがとても容易だ。少数の大手行が独占的な地位にあるからだ。解決に向けて、民間資本を金融に参入させる。」
4月初頭、中国の温家宝首相は福建省を視察した際、資金不足に悩む中小企業の訴えを受け、国有銀行の独占打破、金融改革の加速を約束した。
それでは中国の銀行は一体いかに容易に利益を得ているのか?最近に発表された2011年中国銀行業の決算内容はその実態を明らかにし、温首相の発言を裏付けている。
当局の発表によれば、2011年中国商業銀行の純利益は前年比36.3%増の1兆412億元(13兆5,356億円)にのぼり、世界銀行業全体の20%を超える。そのうち、下記五大国有商業銀行の純利益は中国銀行業全体の6割以上を占める。
中国工商銀行 2084億元(2兆7092億円) 25.6%増(前年比、以下同)
中国建設銀行 1694億元(2兆2200億円) 25.5%増
中国銀行 1242億元(1兆6146億円) 18.8%増
中国農業銀行 1220億元(1兆5860億円) 28.5%増
中国交通銀行 507億元(6591億円) 30%増
上記五大国有商業銀行の2011年度の純利益は6808億元に達し、平均増益率は25%にのぼる。利益の源泉は正に貸出金利と預金金利の利ザヤにある。2011年末現在、1年期の定期預金金利3.5%に対し、同期の貸出基準金利は6.65%となり、金利差は3ポイントを超える。2011年五大銀行の売上1兆7000億元のうち、利息収入だけで1兆3000億元に達し、全体の77%を占める。まったく苦労せずにとても容易に利益を得られるのだ。正に「暴利」そのものである。
中国企業全体の利益率が低下している中、銀行業の「暴利」が特に目立つ。
2012年4月4日時点で、決算を発表した上場企業1336社の総利益は前年比13%増の1兆6420億元(21兆3460億円)。その中身を見ると、上場銀行12行の純利益は前年比29%増の8415億元(10兆9395億円)で、上場企業利益全体の51.3%を占める。仮に12行を除けば、残る1324社上場企業の利益は前年に比べ0.13%の減益となる。「暴利」の銀行と薄利の企業という実態が浮き彫りになる。
この企業利益の巨大ギャップにつき、民生銀行の洪崎行長(頭取)はあるシンポジウムで次のように本音を漏らしたという。「企業の利益が低く、銀行の利益が高い。利益が高すぎて発表するのも恥ずかしくなる」と。
この銀行業の「暴利」は今、民間企業経営者及びマスコミから批判の集中砲火を浴びている。その矛先は正に温首相が指摘された「大手行の独占」に向かっている。
周知の通り、中国の銀行業は国有銀行の独占分野であり、民間企業の参入をほとんど許されなかった。そのため、銀行同士の競争が少なく、利ザヤだけで巨大な利益を得ている。商業銀行の北京銀行を例にすれば、2010年、同行売上156.35億元(2032億円)のうち、利息収入は92.6%にのぼり、手数料やマージンなど収入が6.2%を占める。
去年以降、欧州債務危機の発生によって、中国の輸出企業、特に中小企業の業績が悪化している。銀行の貸し渋り傾向が強まり、民間企業は国有企業のような信用担保がないため、銀行からなかなか融資を得られない状態が続く。こうした銀行業の暴利と国有銀行の独占は、ヤミ金の横行ももたらしている。厳しい資金繰りに陥った中小企業はやむを得ず、ヤミ金から資金を調達する。ヤミ金の金利は年利50~150%にのぼり、企業側はこんなに高い金利を返済できるはずがない。そのため、企業倒産が続出し、特に中小企業が集中する浙江省温州市では夜逃げ事件が後を絶たず、多い時は一夜で数十社の企業が突然消えてしまったという。
要するに、銀行業の暴利と国有銀行の独占は中国の金融改革を阻害し、民間企業業績の悪化をもたらし、景気低迷の一因ともなっている。「国進民退」(国有企業が躍進するが、民間企業が後退する)の元凶でもある。この現状を打破しないと、経済の持続成長が難しいと、中央執行部は危機感を強めている。本文の冒頭に触れた温首相の発言は正にこの危機感の表れであり、「独占打破」という金融改革への決意表明でもあると、筆者が見ている。
この温首相の発言と関連して、中国政府は今、中小企業が集中する温州市を金融改革実験のモデル地域を指定し、民間金融機関を育てる方針を打ち出している。成功すれば、金融改革を全国に広げていくという思惑である。
最近、政府当局は金融分野の改革を加速する姿勢が鮮明になっている。民間資本による金融分野への参入規制緩和のほか、外国資本による中国資本市場参入への規制も緩和する。証券管理当局の発表によれば、外国人による中国株式・債券投資及び銀行預金の限度額を300億㌦から800億㌦へ、外国機関による人民元投資の限度額を200億元から700億元へそれぞれ2倍以上引き上げた。
言うまでもなく、中国の金融改革加速は日本企業にも商機をもたらすことになる。まず、国有銀行の独占打破、民間の金融参入という規制緩和は、企業、特に中小企業の資金繰りを改善させる。金融は産業の血液であり、血流の改善は産業の活性化に繋がる。これは中国進出の日本企業にとって、取引代金の回収を容易にし、商取引を一層活発化することができる。中国企業の収益改善はその恩恵が日本企業にも波及する。
第二に、民間資本の金融参入規制の緩和は、日本を含む外国金融機関にとっても参入機会が増える。
第三に、外国人による中国株式・債券投資の限度額の引き上げや外国機関による人民元投資の限度額の引き上げは、日本の機関投資家と個人投資家にとっては朗報である。
これらの金融改革の措置はまだ十分とは言えないものの、中国の金融分野の改革と資本市場の開放が一歩前進することは間違いない。日本企業はこの変化の兆しを見逃さず、時を移さずに商機をキャッチすることは肝要である。