5月の中国経済は回復の基調が継続し、4月に比べ明るい材料が多く増えている。そのうち、賑わう自動車市場が特に注目される。25カ月ぶりに2桁増を記録した新車販売は、中国の消費市場に
元気を付けるだけでなく、日本企業にも多大な恩恵をもたらしている。
◆投資・消費・工業生産が大幅に改善
図1に示すように、5月の主要経済指標は大幅な改善が見られ、経済の回復を裏付けている。
まず消費を見よう。中国国家統計局の発表によれば、今年5月の全国小売総額は前年同月に比べれば▼2.8%と、まだマイナス圏から脱却していないものの、4月(▼7.5%)より4.7ポイントも改善した。
次に固定資産投資(インフラ、設備、不動産を含む)。1~5月は前年同期比▼6.3%で、1~4月より4ポイント改善している。まだプラスになっていないが、単月で見た場合、5月の固定資産投資は4月より5.9%増となっている。
出所)中国国家陶芸局により作成。
5月の輸出は人民元ベースで前年同月比1.4%増と、2ヵ月連続でプラス成長を維持しているが、4月(8.2%増)より伸び率が縮小している。コロナの影響で欧米諸国の景気回復は遅れ、中国輸出拡大の重荷となっている実情が浮き彫りになる。なお、ドルベースでは5月の輸出は3.3%減少、輸入16.7%減少。輸入の大幅な減少は中国の内需回復が力強さを欠く実態を反映している。
主要経済指標のうち、最も急速に回復している分野は鉱工業生産だ。国家統計局の発表によれば、5月の工業生産は前年同月比で4.4%増、2ヵ月連続でプラス成長を維持している。電力生産と消費も3.6%増で、鉱工業生産の急速な回復を支えている(図2を参照)。
出所)国家統計局の発表により作成。
◆賑わう中国自動車市場 恩恵を受ける日系企業
数多くの明るい材料のうち、最も注目されるのは賑わう自動車市場だ。中国汽車工業協会の発表によれば、今年5月の自動車生産は218.7万台、前年同月に比べ18.2%増、新車販売台数は14.5%増の219.4万台となっている。販売台数2桁増は2018年4月以来25カ月ぶりの快挙だった(次頁図3を参照)。
自動車市場の活況は中国の消費市場を活性化させるのみならず、コロナで窮境に陥る日本の自動車産業にも大きなプラス影響を与えている。
日本自動車販売協会連合会の発表によれば、5月の国内新車販売台数は前年同月比44.9%減の21万8285台だった。メーカー別では乗用車8社が3~7割が減少。最も落ち込んだSUBARUが69.8%減、下落幅が最も小さかったトヨタでも33.4%減と低迷した。窮境に陥る日本自動車産業にとって、中国新車販売台数の急増は唯一の救い手となるかも知れない。
出所)中国汽車工業協会の発表により作成。
図4に示すように、5月中国での販売台数はトヨタが前年同月比20.1%増、日産6.7%増、マツダ31.6%増。ホンダは▼1.7%だったが、4月の▼10%より8.3ポイントが改善された。4社合計の中国販売台数は45万3432台にのぼり、日本国内新車販売台数の2倍強に相当する。中国市場がなければ、日本自動車産業が飯が食えないと言っても決して過言ではない。
出所)各社の発表により作成。
賑わう中国自動車市場は日本の完成車メーカーのみならず、部品メーカーにも恩恵をもたらしている。あるトヨタ系列会社の社長によれば、4月下旬以降、中国進出の現地日系部品メーカーは、旺盛な市場ニーズに応えるため、フル稼働+残業で対応する状態が続いているという。
◆第2四半期のGDPはプラス転換になるか?
実は自動車市場のみならず、中国の不動産市場にも活気が戻ってきた。国家統計局の発表によれば、今年5月、全国不動産販売面積と取引金額はコロナ発生以来初めて前年同月比でプラス転換を実現した。全国70大中都市のうち、新築住宅取引価格が前月比で上昇した都市は57、中古住宅価格が上昇した都市は41にのぼる。
住宅と車。個人消費の二輪と言われ、消費市場の行方を大きく左右している。裾野が広いこの2大分野は率先して回復し経済成長への波及効果が期待される。
それでは、第2四半期の中国GDP成長率はプラスに転換できるのか?カギを握るのは6月の中国経済のパフォーマンスだ。4月、5月のように景気回復の勢いが継続すれば、プラス成長に転換することは可能と思う。
勿論、不確定要素も多数残っている。例えばコロナ第二波の根強い懸念だ。中国をめぐる海外コロナ感染事情は依然と厳しく、主な輸出先であるEU諸国とアメリカでは感染がなかなか収まらない。外国から中国への入国感染者は跡を絶たない。一方、中国本土には北京市で新たな集団感染が確認され、衝撃が走っている。米中貿易戦争も終結の目途が立たない。今年の不確定要素が多いため、的確な経済予測が難しい。中国政府も今年の経済成長目標を設けず、異例の対応をせざるを得なかった。
個人的な見方だが、コロナ第二波の懸念が確かにあるが、湖北省武漢市のような大規模な感染爆発の可能性が極めて低い。たとえ一部の地域に第二波が到来するとしても、2月のように中国全土に感染拡大する可能性がないと思う。従って、第2四半期の経済成長率は▼1,0%~1.0%の間になるのではないかと、筆者は予測する。
中国経済が本格的に成長の軌道に乗るのは、第3四半期以降と思う。2020年通年の成長率は1.5%前後になるだろう。19年(6.1%成長)に比べれば、成長率が確かに大きく落ちるが、大幅なマイナス成長に陥る日米欧に比べれば、プラス成長を保つ中国は際立つ存在となるだろう。(了)