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税務・会計

第82号 BS「格言」 其の二十八

会社を守り抜くための緊急対策

其の二十八

規則性のないバランスシート残高には危険が潜む

 

 御社の売掛金の月末の残高の推移はいかがですか。
 現金や預金残高は・・・
 
 バランスシートや損益計算書の月次の残高は、前月末の残高に当月の増加を加算、減少を減算して求めます。
 いずれも、計算式はバランスシートも損益計算書も同じです。
 両者が決定的に異なるのは、損益計算書は、増加が減少を明らかに上回っているため、前月末残高より当月末残高が増加していることです。
 会計期間を毎年1月から12月とした場合、損益計算書は、1月から毎月、取引を加算していきます。
 1月の売上が1000万円で2月の売上が2500万円であれば、2月末の残高試算表の売上金額は3500万円になります。
 交際費などの費用も同じです。
 1月の交際費が10万円で2月の交際費が7万円であれば、2月末の残高試算表の交際費の金額は17万円になります。
 ということは、もし、3月末の売上が3200万円となり前月末より300万円減少していれば明らかにおかしいということになります。
 このようなことがあるわけがないと思われる方も多いと思いますが、実際にはあります。
 たとえば、多額の返品があれば、売上の減少になります。
 ということは、損益計算書は、毎月、残高が増加していくことが当然であるため、残高が減少するということは、一種、異常事態発生になります。
 先ほどの売上の減少、たとえば、多額な返品は当然、異常事態です。
 通常の費用についても、減少が生じていますと見過ごしてはいけません。
 どこかで、多額に、費用を計上したため、辻褄を合せるために減額することもあります。
 
 ただ、損益計算書を見過ごしてもバランスシートがチェック機能を果たしてくれるから安心です。
 以前に、損益の不正は、必ず、バランスシートに現れるという話をしたと思います。
 売上の異常は、確実に、売掛金に影響するように…
 
 なぜ、バランスシートで異常を発見できるのかと言いますと、損益計算書とは違い、バランスシートの各勘定残高には大抵、規則性があるからです。
 損益計算書が安定している、たとえば、急激な売上増加などがない場合、月末の売掛金の残高は、前月末の残高と、それほど変化はありません。
 売上の急激な増加があれば、一般的には、回収が遅れ気味になり、月末の残高は増加するものです。
 次月残高が、以前の金額に戻っていれば、きちんと回収できたと一応、判断できますが、増加のままですと、回収が遅れているか、売上の計上自体に疑義が生じます。
 
 では、以前の金額に戻っていれば、手放しで喜べるものでしょうか。
 ことは、そう、単純ではないケースもあります。
 経営者が不正をするかもしれないという環境がある場合は、そうではありません。
 お粗末な会計士が監査をするとこんなこともあります。
 「疑義がある売上に関する売掛金が、監査報告書提出前までに回収できれば、この売上を認める」
 こんなことを会計士が平気で言うのです。
 確かに、売上は「商品等の財貨が出荷され」「代金が明確であれば」、計上していいことになっています。
 ということは、回収まできちんとあれば、販売取引は完了したということにもなりそうです。
 それは、本当に、商取引として日常的に行われている場合に限ってのことであり、ある月に新規の取引先に販売し、その販売先が、経営者やその関係者が何らかの形で関わっており、しかも、資金が、経営者やその関係者からその販売先に流れており、その資金が売掛金の回収に使用されているのであれば、そもそも、その販売行為自体が否定されることになります。
 上場会社は、二期連続債務超過になりますと、形式的に、上場廃止に該当することになるため、経営者は何とかして、上場廃止を避けたい一心で、売上を創るという動機が芽生えてきます。
 売上による債務超過回避は、正直、厳しいため、よく行う手口として、増資がありますが、仮に、増資が成功裏に終わったとしても、払込み者は、何かあやしいのでは・・・と疑う必要があるのは当然です。
 ボロボロの上場会社を「箱」と称することがあり、この箱は、安価(一桁の億)で手に入れることが可能なため、会社を上場するよりは、手軽なのです。
 このような人が、増資の引き受けをしている場合もよくあるのです。
 
 さらに、一度、引き受けをするという約束をしながらも、資金力があやしい場合もあり、最後の最後で、引受けを拒否することもあります。
 
 そうなってしまっては、上場会社の経営者は、あとは、何とかして売上を創る(つまり、架空売上)しか手がなくなります。
 このような背景があれば、売掛金の増加には、疑義が生じることは当然であり、また、売上自体も取り消さなければなりません。
 
 不正という特異な場合以外では、通常、バランスシートの各残高には規則性があるものです。
 売上や仕入に大きな変化がなければ、締め日などは固定されていますので、売掛金や買掛金の月次の残高は、それほど変動しません。
 長期借入金は、返済に規則性があるため、月次の残高は、一定金額減少しているはずです。
 短期借入金ですが、残高が変化しないということは、借り換えの連続であることが想定でき、資金的には良い状況ではないことを物語っています。
 
 一度、バランスシートの残高をならべてみてください。
 並べ方は、まず、年次ごと、そして月次ごとにバランスシートの各勘定残高をならべてみてください。
 そして、勘定ごとの規則性を見つけてください。
 ちなみに現金預金も、月末残はそんなに変動しませんが、現金預金は、残高だけではなく、合計試算表の金額にも注視してください。特に経理の人は。
 経理が忙しい会社は危ないと言われるように、お金に忙しい会社の場合、残高は落ち着いていると何事もないかに見えますが、合計試算表で現金預金を確認しますと、取引のボリュームが多くなっていることがあります。
 合計試算表は、たとえば、現金預金は、借方合計は、月間の現金預金増加高を表し、逆に、貸方合計は、月間の現金預金減少高を表しますので、経営者主導の資金移動がある時は、特に注意が必要です。
 経理は、経営を管理する部署なのですから。
 
 

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