●海外で最も人気が高い戦国武将は誰か?
鳥井 私は「経営者も政治家も徳川家康をもっと勉強せなあかん!」と思うんですよ。織田信長はあれだけの天才ですが長続きしなかった。豊臣秀吉も偉大でしたけど、韓国や明、唐天竺まで手中に収めようとするのは誇大妄想ですよね。それで結局、国を潰してしまった。家康はそこをぐっと我慢して、300年にも及ぶ日本の太平を創ったわけですから偉大です。鎖国もイギリスやスペインの植民地になるのを避けるためでしょうし、最後に自分のお墓をどこにつくって、その先どうなっていくのかまでをも考えていた。そういう長期戦略が素晴らしいですね。その思想を解明することは日本の成長戦略にもつながるのではないかと思うんです。
西川 戦国武将の中では、中国などアジア圏では家康が一番人気なんですよ。山岡荘八の『徳川家康』が翻訳されて各国でベストセラーになっています。日本でも高度成長期には立身出世を目指すビジネスパーソンのバイブルでしたが、現在のアジアでは徳川家康こそ21世紀を生き抜くための最高のテキストだとして支持されています。
斎藤 家康は平和主義者でもあり、中国、朝鮮半島では確かに人気があります。秀吉は好かれていませんが。
鳥井 侵略しましたからね。
西川 日光に来るアジアの人たち、特に若い人は、「なぜ徳川家康のゲームがあまり日本にないのか?」と不思議がります。世界ブランドの日光と家康の組み合わせは世界に向けたコンテンツとしてもパワフルです。
斎藤 日光江戸村もありますし。特に忍者は外国人に人気がありますね。
鳥井 外国人はサムライと忍者が好きですね。その話をすれば、欧米人も、けっこう乗ってきます。
西川 西洋文化の騎士道と日本の武士道に相通じるものもありますしね。
●鳥井副会長の先祖と日光の御縁
鳥井 思い出したのですが、私の母方の先祖に川村(対馬守)修就という幕府の官僚がいまして、勘定吟味役だったこの人が天保12年に日光御霊屋御修復奉行を水野越前守忠邦より命じられたのです。
西川 当時の財務省の高級官僚に日光東照宮修復という国家プロジェクトを担当させたような感じでしょうか。
鳥井 そうですね。日光には半年くらいいたようです。私はこの人の孫の六男の娘の息子に当たります。関係としては遠いですが、東照宮の陽明門が修復中だと伺って、150年前の修復担当者が私の先祖だというのも不思議なご縁だなと思います。
斎藤 莫大なコストがかかる大変なプロジェクトだったはずです。優秀な方だったのでしょうね。
鳥井 30代後半で若くして勘定吟味役に抜擢されたようです。この人はわりと骨のある人だったらしくて、勝海舟が「幕府に骨のある三人の男がいた」と述べています。一人は山縣(有朋)、それから大久保(利通)、それから川村対馬守だと。
西川 勝海舟がその二人と並んで評価したというのはすごいことですね。
鳥井 勘定吟味役というのはわりと若い人がなるようですが、権限が強かったようです。金勘定もわかるし芸術もわかる。砲術の指南役でもある。わりとマルチな人だったらしく、造形的なこともできるので修復作業をやらせたのでしょう。
西川 鳥井副会長のご先祖と日光、しかも日光東照宮が結ばれていたとは大変驚きました本当に不思議なくらいご縁がつながりますね。
●徳川家と日光が繁栄し続ける理由
鳥井 東京から日光までの、おおよその所用時間はどれくらいでしょうか?
斎藤 2時間あれば来られます。電車でも2時間あれば十分です。
鳥井 すると、軽井沢とほぼ同じでライバルでもあるわけですね。
斎藤 たしかに、そういう点もあるかも知れません。
西川 ただ、軽井沢には日光東照宮をはじめ二社一寺はありません。それに類する歴史的遺産もありません。東日本で最初の世界文化遺産があるのは日光の大きなポイントでしょう。
斎藤 外国の方が何泊かの旅行で来られる場合、まず東京から日光、そして軽井沢に行くというパターンが多いようです。ですから、2つの地域が共存する形で周囲とどんどん連携して行きたいと思っています。
西川 世界的な観光地として日光ブランドはすごく強いものがありますから、いろいろなコラボを考えながら、市長のおっしゃる連携を良い形でつないで行けたら素晴らしいことですよね。
斎藤 今後、さらに連携を進めて行きたいと思います。
西川 日光東照宮は究極のパワースポットですし、徳川家は長きにわたり繁栄しましたから、子孫繁栄でもご利益のある土地ですね。平成の世にも徳川宗家は現存していて、しかも敵だった秀吉公まで祀っている。そして、家光公や歴代の徳川家のゆかりの如来寺には、戊辰戦争の折に今市での激戦で亡くなった新政府軍の薩摩、長州、土佐、肥前の藩士もたくさん眠っています。
斎藤 戦場になった場所ですからね。杉並木にも砲弾の跡が残っていたりします。
鳥井 彼らは本来、日光から見たら敵に当たりますよね。
西川 それでも、日光の今市の方々はちゃんとお弔いをして、大切にされています。家康公のような「待つこと」の大切さ、そして、皆と仲良く融和していくこと。日光のパワーというのは、自然はもちろん、そうした地域の方々の中に息づく、歴史、伝統、文化の総力だと感じます。
鳥井 勝海舟も言っているように、徳川家が長く続いたのはやはりそういうことからだという気がしますね。外国の人も関ヶ原などの合戦の話を好みますね。
西川 関ヶ原で家康は、難破した外国船から引き揚げた西洋の強靭な甲冑を身に付けていました。未曽有の銃撃戦となった関ヶ原の戦場において、弾丸をはじき返せる強度の甲冑を身に着けていればこそ、家康は最前線に乗り込んで自ら采配を振るうことができたのです。つまり、最先端の技術を活用する一方で、人の和というものを大事にしていたから、家康は戦に勝ち、その後も繁栄し続けることができたのではないでしょうか。
●水から・自ら「日光詣に!」
鳥井 家康について考えると、とにかく徳川家を守ること、そして、江戸幕府存続への強い意志を感じます。
西川 国も企業も地域も家も続いて行く、続けて行くことが何よりも大切ですからね。それには文化の醸成に長い時間がかかりますね。
鳥井 同様にウイスキーづくりには長い時間がかかります。
西川 おっしゃるとおり、100年企業でなければできないことがあります。明治維新で江戸から東京になりましたが、東京が今もこれだけ発展しているのも、日光東照宮が皇居、つまり江戸城の真北に置かれていて、北辰、北斗七星、北極星として二荒山(男体山)とともに江戸、東京を守っているからだとも言われます。江戸東京の風水上の北の守りが日光なのです。
斎藤 東日本大震災でも、地盤が岩盤なので、お陰様で日光は大した被害がありませんでした。
西川 信じられないですよね。あれだけの地震が近くで起こって、日光東照宮をはじめどれも古い建物ばかりなのに、全然被害がなかったというのは驚くべきことです。
斎藤 不思議ですよね。最初に、鳥井さまから、なぜ家康が日光を選んだのかというご質問がありましたが、江戸時代にさまざまな調査を行って、家康がその中から最適な場所として日光を選んだような気がします。
鳥井 やはり、そうなのでしょう。
西川 それに、日光に来ると何だか元気になります。そういう空気、パワーがあります。
鳥井 それなら、「企業人は、全員、日光詣でに行かなあかん!」ということにしたらどうでしょう。
西川 そうですよね。それこそ鳥井副会長を中心に、ダボス会議じゃないですが、日光会議を開催していただきたいです。家康公のエピソードをはじめ、こういう奥深いテーマをもっともっと掘り下げて、日本全国、そして世界に向けて日光を発信して行きたいですね。「お伊勢参りと日光詣で」は企業人のみならず、日本に住む人、訪れる人には必須でしょう。外国人にも侍スピリットの総本山である日光には必ず足を運んでいただきたいです。
鳥井 そこに、ぜひ大阪も入れていただいて。
西川 日光に来た人たちがサントリーの本拠地である大阪にも足を延ばしてくれたら素敵ですね。近くには京都や奈良という世界的な観光地があって、同様に世界遺産も数多くありますから。途中の新幹線で富士山を見てという楽しみ方もできますしね。まさに、市長のおっしゃる連携ですね。
日光には観光も食もあって、水が良いということで多くの企業が注目しています。そういう意味で、日光はまさに日の光、日本の光とも言えます。そういう面でも、日本の命の水を世界に供給しておられるサントリーとは本当に相性がピッタリですし、ご縁がありますね。
鳥井 サントリーのサン(SUN)、太陽とも重なりますね。
西川 おっしゃる通り!日光の日はまさに、SUNTORYのSUNですね。日光は侍スピリットの聖地ですし、将軍が飲んでいた水を「日光のサムライウォーター」として、日本初の世界的なミネラルウォーターにできたら素晴らしいですね。日本は水大国なのに世界的な水ブランドがまだありません。日光の名前は世界的に知られていますし、何と言っても将軍の水ですからね。ミネラルウォーターだけでなく、「山崎」「響」に続いて、「日光」というウイスキーがあっても良いのではないでしょうか。
鳥井 そんな畏れ多いです。お名前をお借りするなんてことをしたら、大権現様に怒られてしまいますよ。
西川 日光は日本の武士道の象徴でもあり、家康の長期戦略と長く眠るウイスキーという意味でもピッタリではないですか。日光の、まさに命の水。日光ブランドのウイスキーというのは世界ブランドになり得る気がします。
鳥井 水は生きています。単なる無機質の物質ではなくて、水の中に一つの生きるエネルギーがあるのではないかという気がするんです。私たちの生命を生かしているのが水。水がなければ生命もないですから。
斎藤 だから「みずから」と言うんですね。
西川 なるほど、「水から」と「自ら」!
斎藤 偉いお坊さんから、そういうふうに教わりました。
西川 サントリーのお仕事と同じで、やはり最後は水だと思います。人のからだのほとんどは水でできていますし、水が合うとか合わないとかも言いますね。鳥井副会長と斎藤市長が今日こうしてお話しになっているのも、ご先祖様を通じたみずからのお引き合わせかも知れませんね。
斎藤 鳥井副会長には、日光にぜひ二度目の修学旅行にいらしていただければと思います。
鳥井 ぜひとも伺いたいですね。斎藤市長もどうか山崎においでください。
西川 本日は興味深いお話をありがとうございました。