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- 第25回 『あかんやつら ~東映京都撮影所血風録』(著:春日太一)
今、タイに来ています。
寒い日本とは真逆の、灼熱の暑さ。
少し外を歩くだけで、頭がクラクラしてきます。
しかし、そんなタイの暑さなど
気にもならないような、
魂ほとばしる、凄まじい一冊に出会ってしまいました!
それが、今回ご紹介する、
『あかんやつら ~東映京都撮影所血風録』
正直、驚きました。
熱い。
とにかく熱い!
映画という1つのモノづくりに
男たちが注ぎ込んできたエネルギーが
行間から突き上げてくる!
読み出したら止めらなくなって
一気に読破してしまいました。
一冊の中に、これほど多様な要素を含んだものは
そうそうありません。
読みどころが、あまりに多い!
おすすめの切り口は3つ。
1.娯楽作品として
心をフラットな状態にして
『プロジェクトX』などのドキュメントを見るように、
東映という、日本の一時代を築いた映画会社の、
波乱万丈の物語を楽しむ。
2.戦後日本史として
東映の激しい栄枯盛衰を通じて、
戦後の日本史、特に「昭和」を読み解く。
3.ビジネス書として
大衆の心をつかむことを第一に、
時代劇、任侠映画、実録、ポルノ、文芸…と
さまざまな作品を作り続けた東映の映画哲学から、
ビジネスの成功と失敗を学ぶ。
特に、ビジネス面においては、
その方法論は見ものです。
あまりに男らしい、直球勝負なので
非常にいいヒントや刺激が得られると思います。
名言も多い!
「いつも客のことを忘れたらアカンで。
暇があったら小屋に行って客の顔を見て来い」
「お客に喜んでもらえるなら何でもやれ!」
「柳の下にドジョウは二匹でも三匹でもおるわ!」
ショービジネスのみならず、
全ての仕事の原点になる考え方や事例が満載です。
それと、何と言っても、
出てくる人間が魅力的。
片岡千恵蔵や中村錦之助、若山富三郎ら、スターたちはもちろん、
舞台裏にいる社長や監督、助監督、脚本家、現場スタッフたちも
破天荒きわまりなし!
今の時代では、とてもありえない武勇伝だらけです。
実に痛快であると同時に、
この国のスケールが小さくなっていくことへの
危惧の念も抱きました。
著者の春日太一氏が、取材に10年、執筆に3年超をかけた渾身作。
今の日本に足りないもの、必要なものが、ここにあります。
ダマされたと思って、読んでみてください。
それくらい言い切るのに、何のためらいもないほど、
素晴らしい本です!
尚、本書を読む際におすすめの音楽は、
『武満徹:作品集』
演奏:サイトウ・キネン・オーケストラ