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- 高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』
- 第16回 杖立温泉(熊本県)GWまでに訪ねたい3500匹の鯉のぼりが泳ぐ絶景温泉
■100℃近い源泉が湧くレトロな温泉街
2019年のゴールデンウィーク(GW)は10連休。すでに旅の予定が決まっている人もいるだろうし、直前になって「どこかに出かけよう」と慌てる人もいるだろう。あるいは、GWはどこに行っても混んでいるし、旅費も割高になるから、家でゆっくりするという人もいるだろう。私自身は「家でのんびり」タイプである。
そもそも大型連休は温泉地も観光客で一杯だ。温泉地がにぎわうのは結構なことだが、入浴客が多いとゆっくり湯を楽しむことができない。さらに、渋滞なども発生するので、逆に疲れるばかりだ。
だから原則として、GW中に温泉に行くことを人に勧めることはないが、唯一GW中でもお勧めしたくなる温泉がある。
熊本県と大分県の県境、阿蘇郡小国町に湧く杖立温泉である。杖立温泉は、開湯1800年の歴史を誇る温泉地。杖立川沿いに、大型ホテルから湯治宿までバラエティーに富んだ20軒以上の宿が並ぶ。100℃近い高温の源泉が湧くことでも知られ、温泉街のいたるところから、白い水蒸気が勢いよく立ちのぼっている。
狭い谷間に形成された温泉街なので、平坦な土地が少ないのも特徴だ。そのため、駐車スペースは川の岸につくられているほか、斜面に屋根を重ねるようにして建物が軒を連ねている。昭和の香りが残るレトロな建物や看板を見学しながら、細く入り組んだ小路を散策するのも楽しい。
■子供も喜ぶ鯉のぼりの絶景
杖立温泉は、バブル時代までは歓楽温泉街として栄えてきたが、同じ熊本県内の黒川温泉が脚光を浴びるのとは対照的に、衰退する傾向にあった。しかし、今では昭和レトロな温泉街の鄙び加減が脚光を浴び、再び人気を呼んでいる。
杖立温泉の名前は、旅の途中で立ち寄った弘法大師が持っていた竹の杖に由来するとも、「湯に入りて 病なおれば すがりてし 杖立ておいて 帰る諸人」という弘法大師の歌に由来するともいわれている。杖をついてやってきた人が、温泉に入ることで病が治り、杖なしで帰る。それほどに効能が高い湯というわけだ。
杖立温泉が最もにぎわうのが、4月から5月のGWの期間である。名物の「鯉のぼり祭り」のシーズン(2019年は4月1日から5月6日まで)で、温泉街を流れる杖立川をまたいで3500匹以上の鯉のぼりが気持ちよさそうに泳いている。圧巻のひと言に尽きる。特に、小さなお子さんがいる人にはおすすめである。
「鯉のぼり祭り」の歴史は古く、1963年までさかのぼる。河川の上に鯉のぼりを泳がせるイベントは全国で見られるが、杖立温泉はその発祥地だといわれる。
■美人の湯と名物の「むし湯」
現地を訪れたらぜひ宿泊したいが、温泉街には日帰り入浴ができる宿も10数軒ある。そのうちのひとつ、「米屋別荘」は、落ち着いた雰囲気の和風旅館で、チャボが庭先を歩きまわっている。
内湯もあるが、露天の混浴岩風呂がすばらしい。豪快な2本の打たせ湯がある湯船は、15人ほどが入れるサイズで、透明の塩化物泉が100%かけ流しにされている。100℃近い泉温にもかかわらず、加水をせずに、冷ましてから少しずつ投入するというこだわりがうれしい。
硫黄の香りとツルツル感が特徴。まろやかな塩味も確認できる。100℃もあるというと、「激アツのハードな湯」というイメージだが、意外と肌になじむソフトな湯で、長湯も苦ではない。古くから「美人の湯」と呼ばれるのもうなずける。
露天風呂の一角には、杖立温泉名物の「むし湯」もある。高温の温泉蒸気を利用した、いわゆるサウナだ。杖立では古くから親しまれており、ほとんどの旅館に設置されている。地元の人は、「風邪をひいたら、むし湯に入る」そうだ。
「むし湯」は一般的なサウナほど息苦しくもなく、呼吸もしやすい。部屋に充満する蒸気を思い切り吸い込むと、体の内側から温まっていくのがわかる。浸かってよし、吸ってよしの名湯である。