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第42話 SDGsって、手軽なところからこそ

北村森の「今月のヒット商品」

2021年、SDGsという言葉は、より一般的になるかもしれませんね。ただし、それには条件があると思ってもいます。

 

SDGsは「持続可能な開発目標」と訳されていますが、いまひとつわかりにくい。また、その範囲は幅広く、そのため、なかなか捉えきれない概念であるとも言えます。

 

私は仕事柄、こうした新しい言葉が世の中に浸透しつつある状況では、いつも「5秒以内で端的に伝え切れる表現はないか」と考えます。SDGsの場合、どうでしょうか……。私ならこう伝えます。「誰にも何にも犠牲やしわ寄せがいかないように、努力する取り組み」。これでちょうど5秒くらいでしょうか。

 

まあ、これでも、ちょっと抽象的ですね。こういうときは、具体的な商品から理解を深めていくのがいいかもしれません。

 

mori421.jpg

 

上の画像をご覧ください。右側に写っているのは「クリップファミリー」という商品で、紙などをまとめておくのに便利です。左側は「アニマルハグ」。こちらはマスキングテープカッターです。テープにくくりつけて使う感じ。

 

どちらも、東京のスガイワールドという企業の手になるもので、価格はそれぞれ税別で480円。ネコやサルなど、動物の姿をかたどっているのが興味深いところです。

 

この文具がどうした? 順番に説明していきますね。この両商品、いずれも、プラスチックではなくてファイバー紙で作られています。ファイバー紙というのはセルロースという繊維を板状に固めてつくられた素材であり、かなりの硬質です。しかも、ちょっとでも湿気を帯びると、たちまちぐにゃりと曲がってしまい、どうにも扱いづらい素材だそう。

 

スガイワールドの代表は、取引先の紙工会社の担当者がそうこぼすのを聞き逃しませんでした。それが2015年のこと。そして、1年近く考えたすえに、ある結論にたどり着きました。

 

スガイワールドの代表はこう考えたそうです。「普段は鉄のように硬く、水気に触れると容易に曲がってしまう、そうした欠点をむしろ生かせないか」。

 

つまり、その特性を弱点として捉えるのではなくて、「使えるもの」という方向で考えられないかという話です。

 

で、手始めに開発したのが「クリップファミリー」でした。

 

mori422.jpg

 

発売後、オフィスで働く女性層がこの商品を見逃しませんでした。水でちょっと濡らすと、たちまち曲がりますから、動物をかたどったこのクリップにポーズを取らせて遊べるわけです。で、少なからぬユーザーが画像に収めてSNSに投稿した。そこからじわじわと売れ始めたんです。

 

SDGsの話はどこに行った? そうですね、説明しなければいけませんね。「クリップファミリー」の原材料であるファイバー紙は、土の中で分解します。そこがプラスチックとは異なるところ。スガイワールドの代表は、地球環境に優しいというところを大々的には打ち出してはいないながら、消費者にとってごく自然にエコを実践できる商品を、世に送り出したということです。

 

さらに2019年に発売したのが「アニマルハグ」でした。マスキングテープは昨今人気の商品分野ですね。ただ、マスキングテープがプラスチック製ではないエコ商品であるのに、どうしてカッターの側はエコ素材でないのか、という思いがスガイワールドの代表にはあったといいます。だったら、カッターをファイバー紙でつくればいいのでは、と考えた。そして「アニマルハグ」を登場させたというわけです。

 

この「クリップファミリー」も「アニマルハグ」も、2020年のコロナ禍において売り上げは落ちなかったと聞きます。さらには、米国や中国などの海外からの注文も増え、やはり2020年の厳しい社会状況下でも好調を保持できた。ひとつはエコ商品であること、もうひとつはファイバー紙を加工する技術は難しく、追随商品がまだ出ていないことが要因なのでしょう。

 

大上段に構えずとも、おのずと環境に貢献できる可能性を秘めている……商品購入を通したSDGsへの寄与というのは、そういった部分が肝要なのではないかと、私は思うわけです。その意味で、スガイワールドの商品群は、今後のヒット商品づくりへのヒントとなるものと感じています。

 

 

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