総合電機メーカーであるソニーの取り組みから、今回は製品やサービス構築のヒントを掴んでみましょう。
同社は、2025年度以降、主要商品に「インクルーシブデザイン」を導入することを決めています。それってどういう意味? テレビや音響機器など、ソニーが開発・販売する商品は、基本線としてどれを買っても、高齢者や障害者が使いやすいデザインになる、という話です。
この画像は、すでに海外向けに開発されたテレビ用のリモコンです。ボタンの数が少なくて、操作しやすい仕様になっています。原則あらゆる商品(部品などを除く)で、こうしたようなデザインを全面的に取り入れるそうです。
ポイントはどこにあるかといいますと、「一部の商品に、高齢者や障害者に向けたものが存在する」というのではなくて、「同社の商品を選べば、何も意識しなくても誰もが使いやすいものになっている」というところですね。
こうした取り組みを実践するために、同社はすでに全社あげての体制づくりを進めているといいます。商品の開発段階で必ず、高齢者や障害者の声を聞くこと、それをどう反映するかの仕組みを構築すること、などです。
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/accessibility/event/GAAD2022/interview_003.html
これは、同社の取り組みを説明しているサイトです。本気で取り組む姿勢が伝わってくるかと思います。
さあ、ここからです。このソニーの話からどんな教訓を読み取ることができるのか。
私は2つのことを感じました。まず1つめ。何かをなすときには中庸なゴールを決めるのではなくて、とことんやり切るのが肝心という点です。そのほうが社としての姿勢を鮮明に伝えられますからね。「一部の商品に」ではなく「主要商品を網羅する」からこそ、この取り組みは輝くわけです。
2つめ。いま消費者は何を基準に製品やサービスを選択するのか。「企業への共感」であるという話は、私がいわずとも、いろいろなマーケティングの専門家がすでに指摘するところですね。ではその共感とはどのようにして生まれるのか。
それはまさに「中庸ではない、高いゴールを目指す姿勢」ではないでしょうか。その覚悟が企業にあれば、必ずや消費者の共感を呼び寄せることができ、そうなれば企業は次の覚悟を決める(たとえばソニーの話でいうなら、インクルーシブデザインのありかたを、この先おそらく、どんどん突き詰めるようになるはず)。すると、そこにさらなる共感が起きる。つまり、覚悟と共感のサイクルができあがったとき、製品やサービスの強さは確固たるものになるという話。
こうした覚悟と共感のサイクルをつくり上げる必要性は、なにも大企業に限ったものではないと私は思います。ちいさなところからでも、「うちはこれでいく」と宣言できる部分はあるはずです。