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第47話 低価格競争からの脱却が理由だった!

北村森の「今月のヒット商品」

昨年から、例えば置き配してくれる仕組みのネットスーパーが人気ですね。外出せずに、人と接触しないで食料品などを買えるからでしょう。既存のネット通販サービスもまた好調です。当然ですが、新型コロナウイルスの感染拡大がひとつの背景にあります。

 

その一方で、人は買い物を我慢できないという側面もあります。そう考えると、リアルの店舗にもまだまだ魅力があるのは事実ですね。やっぱり現物を見てから購入したという気持ちもどこかにあるでしょうし……。リアルの店舗には、ネットでは得られない何かがあるもで、今回は「無人店舗」の話なんです。無人店舗というと、地方の道路脇にあるような野菜販売所を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、それだけじゃないんです。数年前から、実は古本屋さんなどの無人店舗が街なかに登場していたという事実があります。今回は古着屋さん。洋服なんです。去年(2020年)の夏、東京の野方という町の商店街の一角に、「無人」と掲げたお店がオープンしました。その名を「ムジンノフクヤ」といいます。

 

まずは、この無人店舗「ムジンノフクヤ」のあらましをお伝えしますね。店内はわずか4坪(13平方メートル強)。そこに600アイテムほどの服がハンガー掛けされています。値段は一着1480円からで、ハンガーの色で服の値段がわかります。また、まとめ買いした場合には割引価格もあります。支払いはどうするか。店内の券売機にお金を入れて支払う形です。小さな店舗ですけれど、試着スペースもある。店内に並ぶ古着は、トップス(トレーナーやパーカーなど)が中心ですから、サイズの確認は割に簡単です。

 

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で、この「ムジンノフクヤ」なんですが、去年の夏にオープンした最初の月から、ギリギリではあるけれど、黒字続きだといいます。客単価は2000円ほどで、月に300人近い来客がある。小さな商店街の一軒としては、大健闘でしょう。客層は10代後半から30代の女性が中心だそうです。ファッションアイテムの購入に敏感な層がついてきていると想像できますね。

 

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「ムジンノフクヤ」のオーナーは、もともとネット通販で服を販売していた男性です。彼に取材をしてみて、ああ、そういうことかと納得できたところがいくつもありました。

 

まず、どうして古着の無人店舗なのか。「まず何をおいても、ネット通販での価格競争からの脱却」だったといいます。ネット通販だと、運営するサイト側への手数料が発生しますし、ライバルも多いから値下げ競争に巻き込まれます。そしてもうひとつは「ユーザーはやっぱり服の現物を手にとって購入したい」。そのニーズに応えるための試みでもあった。

 

私はとりわけ、前者の理由が興味深く感じました。無人店舗というからにはコスト削減こそが最終目的(低価格競争を今後も続けて勝利するための窮余の一策)かと思いきや、そうではなくて、低コスト型の運営はあくまでひとつの手段なのですね。

 

「ムジンノフクヤ」開業の目的は、低価格競争から抜け出して、さらに着実なファン層をつかむところにあった、というのが面白い。数多いるライバルとの戦いに疲弊しないようにしたかった、そのための低コスト化であると、明確に位置付けている。商品を無理のない価格設定にでき、そのことで惹きのある商品の仕入れにもつながり、しかも企業としての体力を削がれないようにする。そのためなのですね。

 

さらに、です。いくつもの取り組みが、この「ムジンノフクヤ」で功を奏したとも聞きました。

 

例えば、連絡帳の存在。お客さんはここにお店への要望を手書きします。すると数日のうちにスタッフが返事を書いてくれます。オーナーによると「無人店舗だからと無機質な空間になるのを避けたかった」そう。また、今年に入って、商品のラインナップを大きく変えたらしい。一点物、もしくは一点物に近い古着を中心に据えるように変えた。なぜか。

 

まずは「無人店舗であること以前に、楽しい服屋でないといけないから」といいます。そうですね。肝心の商品に魅力がないと、行く意味はありません。そしてもうひとつの理由は「万引きされて、転売されることへの抑止効果」だそうです。なるほど……、一点物であれば足がつく、と万引きする人は考えますからね。ちなみにこの無人店舗、昨年夏からここまで、万引きは2人だけだそう。しかも万引きした本人を特定することもできたといいます。防犯カメラの存在以上に、消費者の良心がそこに働いている気もしました。

 

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私、思うのですが、この無人店舗の古着屋「ムジンノフクヤ」は、コロナ社会でのお店のひとつの可能性も示していますし、同時に、いま苦境にあえいでいる数々の商店街へのヒントになるかも、とも思いました。低コスト型を貫きつつ、でも商品は強いものを揃えるという大方針がそこにある。そうすれば、ちゃんと人はやってくるという話ですからね。

 

こうした試みと言いますか、店舗経営に関する考え方の枠組みは、おそらく古着以外にも応用が利くのではないでしょうか。

 

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