債務が延滞、滞納してそのままにして、所有不動産に仮差押・差押がかけられたという話はよく聞く。とくに国税・地方税の滞納で話し合いもせずに放置した場合、必ずこの差押がかけられると考えたほうがいい。
そこで、この所有不動産に対する仮差押・差押について書いてみたい。
まず、債務者の所有物に対して仮差押・差押があるのだが、法人の税金の滞納による場合は、代表者所有資産にたいする差押というのはありえない。あくまでも債務者本人か保証人の所有資産に対するものなのだ。
仮差押・差押があったとしても、その所有不動産に回収する余力がなければ、仮差押・差押をしてきた債権者は無意味なことをやったことになる。これが無剰余といわれる問題だ。
つまり、仮差押・差押によって競売にいたった場合、その債権者が回収できる余地があるか、ないかが対応を分けるポイントになる。
不動産の無剰余とは不動産の時価以上に抵当権等が設定されていて、担保価値がない状態のことを意味するが、図解すると下記のようになる。下記の例ではすでにC銀行によって8,000万円の借入が担保されているので、この後に、この不動産に差押をしてきても回収の余地がないことになる。これが無剰余 といわれるものだ。
もしも、無剰余でない不動産に仮差押・差押をされたら、なす術はなくなる。
しかし、無剰余なら、それに対抗する方法はあるのだ。
この無剰余の場合における債務者の対応(どんなことができるか)を、一般債権者と税金とで分けて考えてみたい。
まず、今回は一般債権者からの場合で話をすすめたい。
一般債権者が仮差押・差押をしてくる場合、無剰余の可能性は低い。その不動産から回収できる余地があるから仮差押・差押をしてくるという経済合理性で債権者が動いているのが普通だからだ。
仮差押等は強制執行によってその不動産を換価し、資金の回収をするというのが趣旨であり、その前提を満たさなければ保全を行う意味がなくなる。そしてこれについては民事保全法でその却下について言及されている。(注1)
さらに、この仮差押・差押による競売で無剰余の場合は、それ自体が一般的には取消されてしまう。これについては民事執行法63条に規定があります。(注2)
ただし、無剰余でもみずからが買う場合などの例外もあるので(63条2)注意してほしい。
いずれにしても、現状を冷静に見て、あきらかに無剰余なら、対応ができることは理解しておいたほうが得だと思う。
第十三条 保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を明らかにして、これをしなければならない。
2 保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性は、疎明しなければならない。
第六十三条 執行裁判所は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、その旨を差押債権者(最初の強制競売の開始決定に係る差押債権者をいう。ただし、第四十七条第六項の規定により手続を続行する旨の裁判があつたときは、その裁判を受けた差押債権者をいう。以下この条において同じ。)に通知しなければならない。
一 差押債権者の債権に優先する債権(以下この条において「優先債権」という。)がない場合において、不動産の買受可能価額が執行費用のうち共益費用であるもの(以下「手続費用」という。)の見込額を超えないとき。
二 優先債権がある場合において、不動産の買受可能価額が手続費用及び優先債権の見込額の合計額に満たないとき。
2 差押債権者が、前項の規定による通知を受けた日から一週間以内に、優先債権がない場合にあつては手続費用の見込額を超える額、優先債権がある場合にあつては手続費用及び優先債権の見込額の合計額以上の額(以下この項において「申出額」という。)を定めて、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める申出及び保証の提供をしないときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消さなければならない。ただし、差押債権者が、その期間内に、前項各号のいずれにも該当しないことを証明したとき、又は同項第二号に該当する場合であつて不動産の買受可能価額が手続費用の見込額を超える場合において、不動産の売却について優先債権を有する者(買受可能価額で自己の優先債権の全部の弁済を受けることができる見込みがある者を除く。)の同意を得たことを証明したときは、この限りでない。
一 差押債権者が不動産の買受人になることができる場合
申出額に達する買受けの申出がないときは、自ら申出額で不動産を買い受ける旨の申出及び申出額に相当する保証の提供
二 差押債権者が不動産の買受人になることができない場合
買受けの申出の額が申出額に達しないときは、申出額と買受けの申出の額との差額を負担する旨の申出及び申出額と買受可能価額との差額に相当する保証の提供
3 前項第二号の申出及び保証の提供があつた場合において、買受可能価額以上の額の買受けの申出がないときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消さなければならない。
4 第二項の保証の提供は、執行裁判所に対し、最高裁判所規則で定める方法により行わなければならない。