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故事成語に学ぶ(29) 知りて言わざるは不忠

指導者たる者かくあるべし

手詰まりの秦に策を授ける張儀
 紀元前4世紀、古代統一国家の周が弱体化し、中国は小国が乱立し戦乱に明け暮れていた。西方の秦が最強国ではあったが、外交弁論家の蘇秦(そしん)が、中部、東部の諸国家(諸侯)を連合させて、秦に対抗する。合従(がっしょう)策という。

 秦は個別の戦いで次々に勝利するが、蘇秦が指揮する諸侯のてこ入れでたちどころに復活してしまう。モグラ叩きの状況に、秦は手詰まりに陥った。
 蘇秦に対抗する弁論家の張儀(ちょうぎ)は、「天下統一の一番手は秦」と見て、秦の恵文王に外交の秘策を説きに向かう。

 

 命を賭けた説得術
 秦王に会った張儀は切り出す。
 「内容をよく知らずに得々と語るのは馬鹿者です。逆に知っているのに話さないのは、忠義にもとります」〈知らずして言うは不智たり。知りて言わざるは不忠〉。そして続ける。「不忠は死罪にあたります。建策してそれが的外れだとこれも死罪相当。死を覚悟しつつも言わざるを得ません。お聞き及びの上でご判断を」。
 初対面とはいえ、ここまで言われれば、「申してみよ」となる。手詰まりの王としては解決策が欲しい。そのリーダーの心に飛び込む殺し文句を張儀はまず吐くのである。
 たとえば社長を前に御前会議、なかなか幹部は知恵を出さない、口を開かない。「馬鹿者」と叱られるんでないか。「言い出しっぺとして厄介なプロジェクトを任されやしないか」ー。
 そんな時に、社長からこの一言を。「知りて言わざるは不忠」と。
 
 連衡(れんこう)の有効性
 恵文王の懐に飛び込んだ張儀が説いたのは、有名な「連衡策」である。蘇秦が諸侯を束ねる「合従」という対秦集団安保に対して、秦が個別に外交関係を結んで対抗する案だった。とくに東方の遠方にある諸侯との関係を強化して、間にある趙の動きを封じる。遠くと結んで近くを攻める。「遠交近攻」という。
 現代の国際外交でも展開されるほど有効性があるが、企業間の競争でも同様だ。ライバル企業連合を攻めるには、直接の利害がぶつからない友好企業をいかに増やすかにかかっている。
 説き終えた張儀は、王に告げる。
 「これをもって天下の諸侯に立ち向かえば、天下を併せ呑むことができましょう。もし、不首尾に終わるなら、私めを斬って、不忠ものとして国中にお触れをお出しになってください」
 張儀の策は取り入れられ、時代は、秦の覇権に向けて大きく動き出すのである。
(『韓非子』には、韓非の建策場面として同じ話を取り上げているが、時代が合わない。張儀のエピソードとしている『戦国策』が正しいと思われる)

 

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
※参考文献
『中国古典文学大系7 戦国策・国語・論衡』常石茂。大滝一雄訳 平凡社
『韓非子 1』金谷治訳注 岩波文庫

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