前回のコラムでは、売上代金の回収方法について、私の考えを申し上げました。これに関連して、今回は、売上代金の回収サイトについて、お話しましょう。
みなさんの会社の貸借対照表には、「短期借入金」があるでしょうか?
おそらく、8割くらいの会社が、「ある」とお答えになるでしょう。
私には、これが理解できません。
『なぜ、わが社には短期借入金があるのか?!』
お考えになったことはあるでしょうか?
答えは簡単です。
“回収が遅くて、支払が早い”からです。
たとえば売上代金の回収に3カ月かかる会社があります。
この会社が、仕入代金を〆後2カ月で支払っていたら、どうなるでしょうか?
ふつうは、資金が足らなくなりますね。
その不足資金を埋めるために、短期借入を行うのです。
これがいわゆる“運転資金”です。
ですから、短期借入金(運転資金)をなくそうと思えば、
『回収は早く、支払いは遅く』なのです。このテーマに取り組む必要があります。
特に、回収を早くすることに取り組んでいただきたいのです。
今は、その絶好のタイミングなのです。このことをご存知でしょうか?
たとえば、建設業では、
昨年あたりから、協力業者に対して支払いを早くする、
という流れが加速している、と日経新聞でたびたび記事になっています。
この背景にあるのは、一つには人手不足です。
支払いサイトを縮めることで、優秀な協力業者を確保したい、ということです。
最近の話でいえば、大手建設業者(D社)が、
支払サイトを月末締めの翌月15日に変更しています。
カネのない中小企業にとっては、大変ありがたい話です。
実は、こうした話は、何も建設業に限ったことではありません。
私の顧問先には半導体業界に属する会社もありますが、
ここでも同じような話が出ているのです。
業界的にはサイト4か月が主流のようですが、
それを2カ月に縮めるという方向性が打ち出されています。
それから、特に相手先が大企業(上場会社)の場合は、
協力業者への支払サイトを長くしていると、
“優越的地位の濫用”ということで、
公正取引委員会から指導を受けることになります。
みなさまの中には
公正取引委員会からのアンケートが届いているという会社もあるでしょう。
その中に、代金決済についても項目がしっかりと設けられています。
昨今、上場会社が一番気にしているのは、
コンプライアンスです。日本語で言えば、“法令遵守”です。
コンプライアンスを守れない、コンプライアンスに甘い会社は、
それこそ“ブラック企業”として烙印を押されてしまうのです。
だからなおのこと、支払サイトを短くして、
“取引先をいじめている”と見られないようにしようとするわけです。
そうかといって、全ての得意先が支払サイトを短くするはずがありません。
ただ口を開けて待っているだけでは、回収サイトは縮まらないのです。
つまり、ターゲットを絞って、時間をかけて交渉していただきたいのです。
まずは、得意先別の回収サイトの一覧表(リスト)を作成します。
普段からこうしたリスト作成している会社は、意外と少ないものです。
リストを作ると、必ず、他社よりも長い得意先が見つかります。
金額が非常に小さい先はともかく、それなりの取引金額で、
回収サイトが長い会社があれば、是非とも、交渉していただきたいのです。
交渉は相手があるため、思い通りには進みません。
しかも、今回の相手は得意先です。
すんなり行くことなどありえないですし、当然、時間は長くかかります。
100%上手くいくことなど、最初から考えないようにしましょう。
意外かもしれませんが、こうした交渉でネックになるのは、
実は得意先ではありません。
最大のネックは、経営者、あるいは営業マン自身なのです。
「うちの業界は古くから、サイト●ヶ月なんですよ。」
「うちの業界は、特殊ですから・・・・困ったものです。」
「何十年と取引をしてきたなかで、今更いいにくいですよ。」
「サイト交渉して、注文が来なくなったらどうするんですか?」
最初から、サイト交渉なんてできない、と思っているのです。
しかし、実際にしてみると、
紆余曲折はありますが、意外にうまくゆくものです。
「たぶん、ダメだろうな~」という弱腰の姿勢では、
そもそも交渉にはなりません。
交渉していても、本気でないことが相手にも見透かされて、
うまくかわされるのがオチです。
交渉のポイントは、
第一に、決定権のある人間と交渉すること
第二に、こちらは、役職者(取締役、部長)を同行させ、数をそろえる
第三に、なぜ短くしてほしいか、理論武装すること
単にお願いするだけではNG。文書にまとめておくのも効果的です。
実際に私たちがお手伝いしたO社のケースでは、
ある特定の得意先X社に対して、
・サイト短縮は時代の流れである
・X社は得意先のなかでも、特に長い
・O社は、X社の満足度を高めるため、優良な仕入先、外注先を確保している。
・このため、O社から仕入先、外注先への支払サイトは短い
・つまり、O社は「回収が遅く、支払いが早い」ため、資金負担が大きい
(将来何かあれば、すぐに経営危機に陥ってしまう)
このようなことを並べて交渉にあたりました。
私たちがお手伝いしたケースでは、
一度断られても、半年後、1年後にもう一度出向いて、
交渉が成功した場合もあります。
みなさまの会社も、是非とも資金繰りを改善し、
短期借入金をなくしていただきたいと思います。