3.『理解』と『納得』のクロージングに失敗しないために。
正しい事実が理解できたら対応担当者から『○○○のようにさせていただきたい』
という提案をすることになりますが、この提案が自社としては正当だからという驕りは見抜かれますよ。
どんな提案も会社事情でしかありません。それでも納得していただくためには提案に工夫をすることです。
【1】「付加価値」を手にいれることができなかった不満。
だから与えられなかった「価値」の修復だけでは解決しない。
私はしばしばこういう経験をしました。
「300円のケーキに、毛髪がはいっています」というお申し出に、
「それでは、現品を拝見させていただきたいので、おひとつお持ちします」というと
「それですむと思っているの!」と怒声が浴びせられ、
その焦りから最も禁止すべき対応「それではもう一つ、合計二つお持ちします」と言ったところ、
「二個おお!」と裏返って声が返って来る。
そこでさらに間違い対応に加速がつき「それでは3個お持ちしましょう」とすでに、
ご了解を得られるにちがいない大サービス対応をご提案すると、お申し出者はこう言うのです。
「あなたね、私はね、物で返して欲しくて連絡したのではないの!ちっともわかっていない!!
もう、いいです。今後はあなたの会社のものは買いません!!」
といい終わるや否や電話が叩きつけられるように切られてしまうという経験です。
“なんで?物で返して欲しくないってどういうこと?またまた、格好つけて”
と苦笑いをしながら後味の悪い思いをしたものです。その後も“それじゃあ、
どうしてほしいというかなあ~”という思いを何度も味わいました。
そして今ではそれもわかるようになってきました。
消費者にとっての商品の購入は、その機能や、サイズや、デザインや、味にお金を払い
『価値』を買っているばかりでなく、その商品を食べたり、使ったりしたら豊かになる気持ちや、
環境や、関係や空間にお金を払い『付加価値』も買っているものなのです。
むしろ、現代の商品は、機能や味などの『価値』だけを商品力にしている商品は皆無と言っても過言ではなく、
どの商品にもその商品を楽しむという『付加価値』も商品力であることを、企業側も力強く訴求していますが、
消費者もその理解に基づいて、商品を購入する決断をしているのです。
つまり、300円のケーキには、味と量とデザインなどが150円を占め、あとの150円は
ケーキを目の当たりにしたときに必ず生まれる笑顔や幸福な思いに払った金額といえるのです。
そして、不具合商品に交換や返金という形で修復ができたような気分になっていたのは、
実は『価値』に対して対応していただけのことで、もうひとつの商品力の『付加価値』の
修復に対応したことにはなっていないということになるのです。
さきほどのお客様が私に「物で返して欲しいと思っていない」と怒声を放ったのは
“『価値』を損なったことについては正しい同等品に交換してもらうことで了解するけれど、
あと半分の『付加価値』は物で返せるものではないのよ。『付加価値』にも私、お金払ってるんだけど。
どうするつもり?”という思いの表れではなかったのかと気づいたのです。
そうなると『価値不満』に対してと、『付加価値不満』に対しての
両方に納得を得ることを考えなければならないということになります。
『価値不満』に対しては、商品の交換や返金や、調査の結果、
会社側に問題がある場合は、納得のいく説明とお詫びとなる金品の提供
ということで対応することになりますが、
『付加価値不満』に対しては、お申し出者にこの『価値不満』で損なった、期待や環境、
関係への気持ちの重さに対して、担当者がお申し出者の立場にたって心を痛め、
その痛みを修復できる対応を提案することが必要です。
しかし、ほとんどの場合、お申し出者の心の痛みを修復して差し上げられるものは見当たりません。
見つかったところで、あまりにも差し出がましい行動になるので、企業と消費者の関係を大きく逸脱
することになりますから、境界線をしっかりと定め、つま先でにじり寄りながら進めていくような提案
にならざるを得ないもので、決してダイナミックな提案とはなりません。
そうなんです。ちっともダイナミックなものでなくてかまわないんです。
問題は、対応担当者のあなたが、“なんとか損なった期待や環境や、関係を修復したいと思っている”
というお申し出者と同じ思いにたったあなたの人柄を、お申し出者が感じてくださることに、
お申し出者に『納得』の感情が生まれるのです。
つまりは、クレーム対応は、問題の商品の交換や返金や調査や検査結果の是非だけで
お申し出者の納得を得ようと考えているようでは、うまくいかないものだということを知っておくことが必要です。
“どうりで、たくさんの説明をしても、大盤振る舞いをしても、納得を得なかったはずだ~”
と手を打っているのではありませんか?
中村友妃子
【出所・参考文献】
『クレーム対応のプロが教える“最善の話し方”』(青春出版社刊)