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経済・株式・資産

第9話 「多様化する資金調達手法 ~③ 官民ファンド~」

どうなる金融業界

コロナ禍の影響を受けて資金調達が課題となっている経営者は多いだろう。

一方で、資金調達の方法も様々な手法が生み出され、多様化が進んでいる。

 

資金調達手法について、今回は官民ファンドを題材に取り上げる。

 

 官民ファンドとは、国の政策に基づき官民の出資等により設置され、民間事業者への投融資を行うファンドである。基本的には、民間の金融機関や事業者だけではリスクを取り辛い事案や地域経済活性化など政策的に進めたい事案を対象として活動している。

ファンドの多くは、2013年1月第2次安倍内閣発足直後の緊急経済対策に盛り込まれて創設、或いは機能拡充された経緯であり、現在、下表の通り13ファンドが運営されている。

 

wakikawa91.png

【参考サイト】内閣官房:官民ファンドの運営に係わるガイドラインによる検証報告

 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kanmin_fund/

 

 

これまでに支援決定した案件総数は 1,186件、支援決定額は約 3兆1,032億円、官民ファンドの投融資が呼び水となった民間からの投融資額は約 7兆6,632億円となっている。

 

出資支援のスキームには、直接出融資支援、LP出資支援、ファンド形態の3種類ある。

直接出融資支援とは、官民ファンドと民間が協調して直接投融資を行うスキーム。

LP出資支援およびファンド形態の支援は、官民ファンドと投資先事業の間にサブファンドを挟むスキームを取る。

LP出資支援では官民ファンドは有限責任組合員として出資を行いファンド運営に関与しないのに対して、ファンド形態の出資支援では官民ファンドがファンド運営を行う。

上表の各ファンド出資支援スキームは、主だったもので区分けしたが、事案によって各スキームを使い分けているのが実状である。

 

 

どのように活用できるか?

 

 先ず、ファンド組成の目的によって対象となる事案は選別される。

13ファンドのうち9ファンドは、農林漁業の成長産業化やインフラ整備、特定産業の海外展開など特定分野の振興支援を対象として組成されている。対象となる産業の事業者やプロジェクト、或いは支援ファンドに対して出融資を行っている。

 

 一方で、産業革新投資機構、中小企業基盤整備機構、地域経済活性化支援機構、それに日本政策投資銀行の特定投資業務の4つは、業種や産業分野に定めはなく、広く企業の競争力強化や地域活性化を目的としている。

それぞれの特徴について、事例も交えて紹介したい。

 

産業革新投資機構(INCJ)

 

 経済産業省所管のファンドで、日本産業の構造的な課題解決を目途として設立された。

現在は、次世代の国富を担う産業を育成・創出するとして、先進的な技術を持つベンチャー企業への投資やグローバルレベルでの競争力確保に向けた事業の再編・統合などに投資している。

 

【事例① ベンチャー企業への支援】

  1. 支援先: LEシステム株式会社
  2. 事業内容: レドックスフロー電池電解液の開発・製造・販売
  3. 支援決定金額: 8億円
  4. 支援内容: 第三者割当増資を引き受け
  5. 狙い: 大型蓄電池として有望なレドックスフロー電池の事業化を促進する。

 

 

【事例② 再編・統合への支援】

  1. 支援先: リバーホールディングス株式会社
  2. 事業内容: マテリアルリサイクル事業、産業廃棄物処理業
  3. 支援決定金額: 32.3億円
  4. 支援内容: 第三者割当増資を引き受け
  5. 狙い:

不要物や使用済製品を回収し、処理・再生・再利用する産業を「静脈産業」と言うが、海外と比較して国内の事業者は小規模なところが多く生産性が低い。調達した資金により業界の再編・統合を進め、日本初の静脈メジャーを目指す。

 

 

中小企業基盤整備機構

 

 経済産業省所管で、中小企業の様々な課題解決の為に設立された。

中小企業支援に取組む地域の関係機関・団体、士業などと連携して起業支援、成長支援、再生支援、或いは事業承継支援を目的に投資を行っている。直接に出融資するのではなく、民間の投資ファンドにLP出資をする間接的な支援形態が多い。

 

【事例③ 事業承継への支援】

  1. 支援先: 株式会社協和精工
  2. 事業内容: ブレーキ開発・製造、精密部品加工
  3. 支援決定額: 不公表
  4. 支援内容:

中小機構が出資し、民間の投資ファンドである㈱ソリューションデザインが運営する、「投資事業有限責任組合夢承継2号ファンド」が創業者親族に分散していた株式をまとめて買い取り整理した。

  1. 狙い:

事業承継に際して、同社の株式は大半が経営に関与していない創業者の親族に分散している状況にあった。会社の将来を見据えた時に、予め株式を整理した上で経営を引き継ぐ事が得策であると判断し、ファンドによる株式の整理を行った。

 

【事例④ 起業への支援】

  1. 支援先: VALUENEX株式会社
  2. 事業内容:情報解析による情報提要サービス業、ツールライセンス販売業
  3. 支援決定額: 不公表
  4. 支援内容:

中小機構が出資し、民間の投資ファンドであるウエルインベストメント㈱が運営する「早稲田1号ファンド」が出資。

  1. 狙い:

・民間の投資ファンド、ウエルインベストメント㈱と協調して、有望ベンチャー企業を支援。

・当初、早稲田1号ファンド等から約1.5億円、翌年にも再び早稲田1号ファンドを含めて数社から約3.5億円、創業初期の段階でありながら合計約5億円もの資金調達に成功した。

 

 

 地域経済活性化支援機構(REVIC)

 

 内閣府、金融庁、総務省、財務省、経済産業省による共同所管。地域産業や地方の企業グループの一体再生、活性化を目的に設立された。地銀など地域金融機関との連携による再生支援への取組みが多い。

 

【事例⑤ 地域企業成長支援】

  1. 支援先: ㈱飛騨海洋科学研究所
  2. 事業内容: 魚介類・水産物の養殖、水産物の加工販売、魚介類水槽装置の製造販売
  3. 支援決定額: 不公表
  4. 支援内容:

飛騨・高山地域の活性化を目的として、REVICと地元金融機関が出資して立ち上げた「飛騨・高山さるぼぼ結ファンド」が出資。経営人材の支援も行った。

  1. 狙い:

・山の地域で海の素材である「とらふぐ」を地域の特産品として育成してビジネスを行いたいという意向を持っていた当該事業者より支援の相談が寄せられた。

・地域の特産品創出を企図する支援対象事業者の事業拡大に対し、投融資(社債の引受)を実行。

・経営等のノウハウを有する専門人材により、支援対象事業者の事業立案、計画策定等についてハンズオン支援。

 

【事例⑥ 再生支援】

  1. 支援先: 第一合繊㈱
  2. 事業内容: 合成繊維(婦人、紳士服地)の企画・製造・卸売業
  3. 支援決定額: REVICからの資金提供は無し
  4. 支援内容:

過大な金融債務を整理した上でスポンサーが事業を引き継げるように、債権者である金融機関やスポンサーと調整を行う。金融機関は、債権放棄を実行し、スポンサーは資金提供を実施した。

  1. 狙い:

・対象事業者は、高付加価値製品の生産が可能な高度な技術力を持ち、地域にとって有用な経営資源を有している。また、職種分業型にある繊維業界において、見附産地において多数の地元企業と仕入や外注取引を行っていることから、地域産業の安定化には必要不可欠な存在。

・有力なスポンサーも付いた事から、過大債務を整理した上で事業再生を図る。

 

 特定投資業務(日本政策投資銀行 DBJ)

 

 財務省所管の公的金融機関。特定投資業務は、民間による成長資金の供給の促進を図るため、国からの一部出資(産投出資)を活用し、企業の競争力強化や地域活性化の観点から、成長資金の供給を時限的・集中的に実施することを企図して設けられた。

 

【事例⑦ 地域課題解決事業支援】

  1. 支援先: ビオクラシックス半田
  2. 事業内容: バイオガス発電
  3. 支援決定額: 不公表
  4. 支援内容: 優先株式の引き受け
  5. 狙い:

・同社の事業は、周辺地域のバイオマス資源や乳牛糞尿を収集し、その発酵により生じるメタンガスを利用した発電を行うほか、その過程で生成する熱や肥料、CO2などを地域農業に還元するもので、有機資源の再利用、新しい農業の振興、牛糞尿の臭気低減に加え、災害時の電力供給への期待など、地域課題の解決にも資するもの。

・優先株式引き受けによる資金支援により、事業化推進を後押しする。

 

【事例⑧ 業界支援ファンドの設立】

  1. 支援先: 国内の宿泊事業者
  2. 提携先: 星野リゾート
  3. 支援内容:

星野リゾートとの共同運営ファンド「星野リゾート旅館・ホテル運営サポート投資事業有限責任組合1号、2号」(通称「ホテル旅館リニューアルファンド1号、2号」)を組成。

  1. 狙い:

星野リゾートは、旅館およびリゾートホテルなど宿泊施設におけるオペレーション、ブランディングおよびマーケティングのノウハウを活かし、これまでも旅館などの再生を支援してきた。その支援体制をより充実させるために共同ファンドを立ち上げた。

 

 

官民ファンドの効果と活用のポイント

 

 以上、4つの官民ファンドの特徴を事例と共に見ていただいたが、様々な課題に対応している事がわかる。

 

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 創業期から成長期、成熟期から衰退期に至る様々な局面において、資金面の課題を解決する枠組みとノウハウを有している。

とは言っても、官民ファンドの年間取扱い件数は全部合わせても百数十件程度と少なく、活用したいと思っても容易ではない。

 

このような状況を踏まえての活用につなげるポイントは次の3つである。

 

  1. 産業競争力の強化
  2. 地域経済活性化
  3. オープンネットワーク

 

 官民ファンドは、日本産業の競争力を強化回復させる事、地方経済を活性化させる事の2点が共通した目標となっており、この要素のうち一つはなければ支援対象とはならないと考えて良いだろう。

逆に言えば、官民ファンドを活用したいならば、産業競争力強化、或いは地方経済活性化に貢献する要素をアピールする必要がある。

 また、官民ファンドへのアクセスについては、直接問い合わせる方法もあるが、現実には日頃から付き合いのある金融機関などからの紹介などが取引につながるケースも多い。ファンド活用の選択肢を念頭に入れて日頃からオープンネットワークで議論しておく事も大切である。

 

 

 

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