コロナ禍や原材料価格高騰の影響を受けて資金繰りに苦しむ、或いは不安を抱える経営者は多い。既に借入金が膨らみ追加融資を受ける事が難しい状況となれば、いよいよリスケの要請が必要となってくる。
リスケ(リスケジュール)とは、銀行から融資を受けた企業が、予定通りに返済することが困難になり、返済金の減額や返済時期の繰り延べなど、当初の借り入れ条件を変更する事を言うが、経営者にとっては気が重い、出来ればやりたくない交渉だろう。
しかし、当面の資金繰り破綻を回避し、中長期的に事業再生を図るためには、リスケを上手く活用する視点は極めて大事である。追い込まれてジタバタ慌てる事態に陥らないためにも、リスケ交渉についての最低限の知識は頭に入れておいて欲しい。
最低限のルールを守る
リスケ交渉を円滑に進める上で、先ず必要な事は最低限のルールを守る事。
守るべきルールは次の3点である。
(1)全行一律同条件の実施
リスケにおいて銀行が気にする第一は、自行が他行と比べて損してないか?割を食っていないか?という点である。
自行はリスケに応じているのに他行は返済が続いている。或いは、返済のペースが他行の方が早い。他行には担保が差し入れられた。
このような状況ではリスケは受け入れられない。各銀行が不公平と感じる事が無いように、全行一律同条件で同時に実施する事が求められる。
リスケというのは一部の取引銀行だけが了承すればよいのではなく、全行まとまる事が原則。但し、政府系金融機関は単独でも応じる事もあるので、最初に相談するのが良い。
(2)騙し討ちは厳禁
銀行を怒らせてリスケ交渉を行き詰まらせてしまうのが、融資直後のリスケ要請である。
資金繰りが苦しくなると追加融資が喉から手が出るほど欲しくなる。そこでついつい資金繰り計画など今後の見通しを偽って追加融資を引き出したり、新規セールスに来た金融機関に調子の良い事を言って融資を受けたりしてしまう。しかし早晩行き詰まり、結局はリスケ要請となるケースが見られる。ここで騙し討ちにあった銀行は「約束が違う」として、リスケ要請に応じなくなってしまうのである。
一行でも応じないとリスケはまとまらない事を念頭に、目先の苦しさから逃れるための騙し討ちは厳禁である。
(3)経営責任の姿勢を示す
もう一つはルールというよりも銀行の協力を得る上での当たり前の行動として、社長が経営責任の姿勢を示す事である。
高額の役員報酬を取り続けていたり、高級外車を乗り回しているようでは、まとまるものもまとまらない。
決して卑屈になる必要はないが、常識的な範囲での切り詰めや社長自身が出向いて依頼するなど、経営者として事業再生に向けて努力する姿勢を示さなければならない。
最終的にどう返済するか
二つ目のポイントは、最終的にどう返済するかを現実的に描く事。
リスケは当面の資金繰り破綻を回避する応急処置であり、本当に大事なのはどのように事業再生を図り借入金の返済にもつなげるかだ。リスケをすれば何とかなると安易に考える経営者もいるが、会社の収益構造を変えなければ破綻の先延ばしに過ぎない。
リスケ交渉には「経営改善計画書」の提出が必須となるが、実現性の高い経営改善に向けた具体策を経営者自身が徹底的に考えて、計画に落とし込む必要がある。
基本となるのは「経常収支(本業キャッシュフロー)の黒字化」である。
リスケ要請に至る段階では、売上減少などで赤字かもしれないが、売上に見合ったコスト体質に絞り込む、或いは売上回復に向けた手を打つ。兎に角、経常収支を黒字にしなければ、事業再生は実現しない。逆に言えば、経常収支が黒字の事業であれば、残す価値があるとして、債権放棄や資本注入など事業再生に向けた銀行の支援に発展する可能性を持つが、経常収支赤字では再生不可能となる。
リスケをした企業の内、事業再生に成功する企業は2割程しかないとも言われるが、経常収支を黒字にして、最終的にどう返済するかを描けなければならない。
資金の余裕があるうちに準備する
もう一つ大事なポイントはリスケ要請するタイミングだ。
リスケをすると借入が出来なくなる、信用を失う、などと考えて手元資金がカツカツの状態になるまで頑張ってしまう経営者がいる。しかしこれは拙い。事業継続が出来なくなってしまうからだ。
リスケの合意には最低1ヶ月、場合によっては2~3ケ月は掛かる。仕入資金や給与など最低限事業を続ける事が出来る運転資金を手元に確保しておかなければならない。
手元資金が売上1ヶ月分を切るようでは危険水域。多少の余裕があるうちから資金繰り計画をしっかりと立てて、追加借入交渉の状況次第でリスケ要請に踏み切る準備をしておく必要がある。
リスケすると追加借入できなくなるのではなく、追加借入できないからリスケをするのである。
リスケ後の事業再生を軌道に乗せるためにも、資金の余裕があるうちに準備する事が肝要だ。
最後に
資金繰りが苦しくなると経営者は仕事が手につかず、冷静な判断が出来なくなってしまう。そのような場面を幾度となく見てきたが、決して一人で抱え込まない事だ。
メインバンクや※中小企業活性化協議会、コンサルタントなど事業再生の専門家などと相談して、対策を立てる事をお勧めする。
そして、リスケ交渉に限らず事業再生を進める上で必ず求められベースとなるのが「資金繰りの把握」と「経常収支の黒字化」の二点である。日頃から資金繰りや本業のキャッシュフローをしっかりと管理する習慣をつけておく事が大事である。
※中小企業活性化協議会とは
中小企業再生支援協議会と経営改善支援センターを統合し、令和4年4月1日より発足。同協議会は、中小企業の活性化を支援する「公的機関」として47都道府県に設置されており、全国の商工会議所等が運営している。地域のハブとなり、金融機関、民間専門家、各種支援機関と連携し、「地域全体での収益力改善、経営改善、事業再生、再チャレンジの最大化」を追究している。