▼牟田太陽の「後継社長の実践経営学」CD版・デジタル版
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- 繁栄への着眼点 牟田太陽
- 第15回「情報を発信する」
「情報を発信する」ということは、社長にとって最重要の仕事の一つである。
「社員に向けて」「お客様に向けて」自分の考えを、会社としての取り組みをどんどんと発信していくべきだ。
何故なら、昭和から平成へ、平成から令和へと時代も移り行き、口伝というのも限界にきているからだ。「察しろ」「背中を見て学べ」「あうんの呼吸で」「見て盗むものだ」「言わなくても通じるだろう」…
私自身は世代的にそういう環境で育ったが、これからの若い社員たちには到底通じない。社長の考えを文字にして、口に出して伝えなければいけない。そうしないとドヤ顔で「聞いてません」と言われてしまう。「伝わらなければ、言ってないのと同じだ」とは、昔から言われている言葉だ。だから社長の考え方も時代に合わせて進化していかなければいけない。
ここ数年では、SDGsなど自社の取り組みを外に発信している会社も増えた。SNSなどで発信する環境も整ってきたというのもあるだろう。そういった時代にただ黙っているだけでは、声高らかに発信している者や、会社に置いて行かれてしまう。気を付けなければいけない。
あるとき無門塾に岡山県のアパレルの社長が参加をされた。
小さい会社だが、父から会社を継ぎ社長となった。
しかし、会長である父は相変わらず口を出し、父親時代からの年上部下からは、「社長なんだから方向性を示してほしい」と言われてしまい悩んだそうだ。そんなとき、地元の先輩経営者から「ここへ行って勉強してこい」と薦められたのが無門塾だった。
当初、社員数は少ないが、営業と製造の連携が悪く、お客様とは「なあなあ」の関係になってしまっていた。ときに「いや、毎年頼んでいる仕事だろう」と納品日の数日前に連絡が来たり、ときに「いや、今年はいらない」と言われ、在庫を抱えなければならなかった。私も随分と相談にも乗ったし、愚痴も聞いた。
「思いの丈を書いたらいいじゃないですか」と書かせた事業発展計画書は、最初あまりに攻撃的で、原稿を真っ赤になるほど直したものだ。「何のために書くのかと言えば、それは社員にトンネルの先の光を見せるためだ。誤解してはいけない」とたしなめたこともあった。
しかし、完成した事業発展計画書は素晴らしいものだった。仕事への愛情、会長への愛情、社員への愛情、地元への愛情に溢れていた。社長は発表会前日に、「緊張してどうしたらいいのか。営業の年上部下が辞めてしまわないか」と相談に乗ったが、「そのままご自分が作った計画書を読むだけでいい」とだけアドバイスをした。
発表会が終わり、数日が経ち社長から電話があった。社長の晴々した声にホッとしていると、「辞めると思っていた年上部下から、『社長がこういう方向性を示してくれるのを待っていたんです』と言われました」と嬉しそうに言ってきた。
現在、このコロナ禍の中で随分と苦労をしているようだ。「コロナで大変なときに会長から『計画通りに言ってないじゃないか』と言われ、思わずかっとなって喧嘩になってしまいました」とまた連絡がきた。「喧嘩くらい、いいじゃない。喧嘩なんてパズルみたいなもんで、お互いピッタリはまるためにカタチを整えてるだけだ」と答えると、落ち着いたようだった。きっと聞いてほしかっただけなのだろう。
ここは、アパレルの利点を活かし仕事が止まっている間に布製のマスクを社内で制作して、お客様、地元に配布していた。いずれそれは自社に戻ってくると私は思う。
社長と社員の距離が近いのが、中小企業のメリットの一つだ。大きなメリットだ。距離が近いのであれば、どんどんと情報は出さなければ勿体ないだろう。
社長の思いや考え方、会社の方向性がわかれば、誰もがビジョンに向かって仕事ができるし、社員が自らの理想も追求できる。これからの時代、「働きやすさ」ではなく、「働き甲斐」を社長は追及していくべきだ。情報を発信しない理由などどこにもない。
※本コラムは2020年6月の繁栄への着眼点を掲載したものです。
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