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社長業

第16回「蒔かれた場所で咲く」

繁栄への着眼点 牟田太陽

 なぜか鹿児島県が好きで、定期的に訪れている。
 鹿児島県といえば「3S」と言われ「西郷隆盛」「桜島」「焼酎」とお客様から教えていただいた。お茶は全国二位の生産地であるし、その他にも様々なものがある。
 お客様に連れて行っていただいた場所でお気に入りの場所がある。薩摩焼の沈壽官窯(ちんじゅかんがま)だ。
 その歴史は古く、秀吉の朝鮮出兵にまで遡る。薩摩焼は初代沈壽官とともに日本に渡り、薩摩藩の重要な商材として永く保護を受けてきた。脱藩されても機密が漏れないよう、デザイン、絵付け、ろくろなど全てが分業されそれを守ってきた。
 その仕組みが崩れたのが廃藩置県だ。
 藩の保護を受けなくなった沈壽官窯は、その瞬間から多くの社員たちを抱えた民間企業への移行を強制された。
 当時の十二代沈壽官の行動は素晴らしく、パリの万博に出展することによって海外での認知度を高めたのだ。当時の外国人から、「薩摩国という国があるのか」と勘違いされるほどセンセーショナルなものだった。「海外で薩摩焼が人気らしい」評判を聞きつけ、そこから国内で偽物が出来るようになった。これで逆輸入的に国内での認知度は広まっていった。
 現在に至るまで、沈壽官窯は幾度の苦難を乗り越えてきた。戦争もあった。
 沈壽官窯に訪れたときに、偶然十四代にお会いしてお話を伺うことが出来た。十四代は昨年亡くなられた。私にとっては貴重な体験であった。
 窯を訪れて気づいたのは、十三代の作品がほぼない。それは戦争で作品が焼けなかったからだ。煙を出すと攻撃を受けるからだ。作品が残せなかった十三代だが、「それよりも多くのことを残してくれた。それは考え方だ」と十四代はおっしゃっていた。
 戦争で同級生が出兵していく。自分も日本で生まれた。あるとき、「自分も出兵したい」と十三代に言うと、こう言われた。「お前にはお前の役割がある。何のために日本にいる。それは戦争に行くことではないだろう」
 「植物は自分で咲く場所を選べないが、それでも文句も言わずに毎年綺麗な花を咲かせる。お前もそうなりなさい」この言葉を聞いたときに、私も涙が出る思いだった。
 自分の役割を理解せずに文句を言っていないか。
 「これは自分のやりたかったことではない」「こんなことをやっていて将来大丈夫なのか」「うちは斜陽産業だから」などと言ってはいないか。この「コロナ禍」と言われる中でますます後ろ向きになってはいないか。
 「何のために事業をやっているのか」自分の役割を今一度再確認してほしい。
 コロナで一番怖いのは何か。勿論感染するのは怖い。私だってそうだ。
 しかし、本当に怖いのはコロナなどではない。社長がこの難局に積極心を失うことだ。中村天風先生は「積極的(せきぎょくてき)」と言ったそうだ。
 社長は、コロナを焼き尽くすまでの積極(せきぎょく)の炎を心の奥底で燃やし続けてほしい。
※本コラムは2020年7月の繁栄への着眼点を掲載したものです。

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