私が社長を務めたジョンソン・エンド・ジョンソン社は、
約130年の歴史をもつ多国籍企業。
現在、世界60ヵ国、グループ128千人・250社で活動を展開しており、
その経営コンセプトの柱の一本を成しているのが、「分散化」の概念である。
では、「分散化」とは何か?
これは、企業の一部門の業績が伸びて規模がある程度大きくなり、
売上高も社員の数も増えてきたときに、その部門を独立したひとつの事業部にしたり、
あるいは、切り離してひとつの会社として独立させることをいう。
そもそも「分散化」には、どんなメリットがあるのだろうか?
ジョンソン・エンド・ジョンソン社をひとつのケースとして説明を続けたい。
第一に、
会社ごとに独立したマネジメントチームができるので、
おのおのプロフェッショナリズムの開発がしやすくなる。
第二には、
個々の会社の成長と一致した、個人としての成長がしやすくなる。
第三に、
高度の専門性が培われるため、顧客ニーズを把握し、
責任ある対処をとりやすくする。
第四に、
あれもやり、これも手掛けるというスタイルではなくて、
限られた分野での活動であるため、秩序ある成長がマネージしやすくなる。
第五として、
個々の会社の規模はそれほど大きくても、
社長以下いろいろな管理職が生まれるため、
経営者をはじめとする管理職レベルの人間が育ちやすくなる。
何といっても「責任」のある仕事を任せてやるくらい、
人を育てるのに効果的な方法はないわけで、
「分散化」経営では、責任をもたせて経営にあたらせるため、
各自、とくにマネジメントの人材開発がおこないやすい。
そこで、ジョンソン・エンド・ジョンソン社の哲学公式は、
『分散化すれば創造性が生まれる、創造性が生まれれば、生産性に結びつく』ということで、
このふたつの方程式の共通項である「創造性」を省くと、分散化イコール生産性である、
ということになる。
文章のカタチでは、
『我々は(分散化による)小さいことのメリットによって、会社としては大きくなった』
という、面白い表現になる。
もちろん、「分散化」には、「権限委譲」の概念も含まれる。
アメリカの企業の例だが、秋のキャンペーン・ポスターのデザインの承認に至るまで、
NY本社にお伺いをたてなければならないというところがあって、
実際に承認が下ったのは冬であったという。
これでは、カタチのうえでは「分散化」ができていても、実際には、
そのメリットを十分使いこなしているとは言い難い。
ただ、ここで「分散化」と「分散化のメリット」だけを並べたが、
反対の概念である「中央集権化」にもそれ相応の優れた点があるので、
単純に「分散化」「分権化」が完全であるという見方から、
この問題に関して語っているわけではない。
要は、どのコンセプトが自社に一番適しているか、したがって、
どちらを信じて実施するか・・・の選択の問題である。
たまたまジョンソン・エンド・ジョンソン社では「分散化経営」方針を採用し、
その結果、世界一の健康関連企業の座についたわけである。