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第58回 常識を疑うと、ヒットが生まれる

北村森の「今月のヒット商品」

 ヒット商品を生む要件とは何なのか。これはもう永遠のテーマとも言えそうな話ですが、少なくともひとつは挙げることはできそうです。それは「業界の常識を疑ってかかること」。当たり前のこととして誰もが(作り手も、そして消費者もです)捉えている部分に斬り込むと、ヒットの芽は見えてくるかもしれません。

 

 なぜこんなことを思ったのか。先日、この商品の話を開発した社長に聞いてきたからです。

 アウトドアで使う焚き火台です。商品の名を「MOSS FIRE」といい、昨年(2021年)、クラウドファンディングで757万円超の支援を獲得しました。その勢いを得て、現在は一般販売も始めています。値段は2万3000円〜。

 

 本体は5枚のステンレスパネルから構成。それらを使って、2種類の形と大きさに組み立てることができます。特徴はほかにもあって、まず、岩場のような平坦ではない場所でも安定する構造となっています。さらには、本体と収納ケースを合わせても1.9kgと軽量のため、とにかく持ち運びがラクです。

 

 開発したのは、東京都青梅市の町工場、小沢製作所です。精密板金製造を専門とする中小企業で、一般消費者向けの商品にはまず縁のない1社でした。

 

 有名なアウトドアグッズのブランドでもないのに、どうしてクラウドファンディングで答えを出すことができたのでしょうか。社長に尋ねてみると……。

 その洒脱なデザインがアウトドア好きの心を捉えたという分析もできそうですが、どうやら一番のポイントは小型軽量な焚き火台という部分にあると言っていいでしょう。ではなぜ、小型軽量にできたのか。そこが知りたいところです。

 

 社長はいいます。「先行して販売されている焚き火台を確認していくうちに、あることに気づいたんです」。

 

 それは「なぜ焚き火台が重くてかさばるのか」という点でした。調べてみると答えはすぐに見いだせました。長い薪が入るようにするためだったんです。アウトドアで使う薪というのはサイズが事実上決まっている感じで、焚き火台のメーカーはそれに合わせて商品をつくっていたわけです。

 

 でも、社長はその場面で考えました。「本当に長い薪を使うのが必須なのだろうか」。たとえば近年人気のソロキャンプ(1人で過ごす時間を楽しむキャンプですね)では、長い薪を使うとは限らないのではないか……。

 

 そして社長は決断します。長い薪が収まることよりも、携行性こそを大事にしよう。これで商品開発の方向が明確に決まりました。すなわち、「ポータルブルでも本格的な焚き火ができるパーソナルギア」です。

 

 そうした突飛な焚き火台が売れるのか。いや、実際に売れましたね。それも、聞けばアウトドア初級者のみならず、上級者も購入しているようです。消費者にすればおそらく、ああこんな商品が欲しかった、と「MOSS FIRE」が登場して初めてみずからの欲求を認識したのではないでしょうか。

 

 最後に社長の言葉をもうひとつお伝えしておきます。小沢製作所がアウトドアブームに乗っかろうとして、この焚き火台を開発したのか。

 

 「いえ、全く違います。キャンピングメーカーの領域に参入するつもりはありません」

 

 ならば、どうして?

 

 「自分たちの会社の強みを広く伝えるには何をつくるべきか。それだけを考えていました。焚き火台を選択したのは、結果にすぎません」

 

 ああ、そういうことだったのですね。だからこそ、業界の常識にとらわれず、「どんな商品を開発して、自社の強みを形に現し、人々に知ってもらうか」に集中できたのでしょう。その姿勢が、既存商品のありように引っ張られることなく、「MOSS FIRE」を世に出せた理由と言えそうです。

第57回 枯れた技術からでもヒットは生める前のページ

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