2)株式を担保として差し出すことになる
事業承継税制の納税猶予を受けるには、担保が必要になります。猶予される納税額に対する担保です。納税猶予される者が対象なので、株式を引き継いだ後継者が担保を差し出すことになります。この“担保が必要”ということが、事業承継税制のなかであまり大きく取り扱われていません。この税制の申請者にとって大きなデメリットとなるからです。だから国は声を大きくして言いたくないのです。担保となるのは、「有価証券、不動産等」とされています。多いのは、後継者が会社の株式を担保として差し出すケースです。後継者には、株式以外、そう大きな財産などないからです。
担保が外れるのは、事業承継税制の認定が取り消しになり、猶予されていた税金を払ったあとです。結局、「猶予」という名の税務署に対する「借金」なのです。だから、猶予期間には金利もつきます。いま現在では約0.7%前後、と言われています。事業承継税制を受けて数年後に認定取り消しになれば、猶予されていた税金と利息を、10カ月以内に払わなければならないのです。これはかなり大きなリスクです。
3)種類株式の活用も、減資もできない
事業承継税制を一度始めてしまうと、減資や株式の種類を変えることは、認められません。株式交換なども含めて、定款変更を要する資本の見直しが、許されないのです。それでも減資や種類株式導入など、資本構成を見直すことを実施したならば、そのときは事業承継税制の認定取り消しです。ただちに猶予されていた税金と利息を、支払わなければなりません。
長い経営において、いつ何があるかわからないのです。
“こんなときはいったん減資をすればよい”
“ここは種類株式を使ってリスク回避したほうがよい”
等といった局面がいつやってくるかわからないのです。そのような一大事に、これらの最適策を選択できない、というのは大いなる経営リスクです。
事業承継税制の認定を受けたあとは、株式資本において、普通株式しか扱えなくなります。それ以外を認めないのです。そういうルールなのです。
“特殊な事情があって…”等という言い訳は通用しません。そんながんじがらめのルールを受け入れてまで、事業承継税制で承継対策をするなど、絶対にやめてほしいのです。事業を引き継ぐ、あとの者が苦しむだけなのです。