◆フェニーズ◆
「仕事を体験できる場をつくる」
プロの職人しか扱えないという「溶接」のイメージをくつがえしつつ、その魅力を多くの人に伝えたい。そんなコンセプトから生まれた、日本初の「溶接体験」工房が、神奈川県鎌倉市の「フェニーズ」だ。
この工房では、毎週水曜・土曜・日曜に、溶接体験教室が開かれている。溶接機やエアープラズマ切断機、グラインダーなど、鉄の加工に必要なツールが揃っていて、生徒は、これらを駆使して、鉄製の作品の制作にチャレンジする。
体験教室といっても、本格的な作品をつくることが可能だ。レッスンが1時間程度の1000~3000円のコースでも、玄関に飾るネームプレートやキャンドルスタンドなどが、オリジナルデザインでつくれる。すでに用意されているキットを溶接するのではなく、鉄板を好きな形に切り抜くところから始まる。客は、自分のセンスを十分に発揮できるわけだ。さらに、1回2~3時間のレッスンを4回受講する1万5000円コースだと、傘立てやベンチ、テーブルといった大物を制作できる。
作り方は、スタッフが、マンツーマンで教えてくれる。マンツーマンで接するのは、安全を確保するためでもある。
この教室がスタートしたのは2009年10月。運営しているのは、スター電器製造。小型溶接機の国内シェアの9割を占めているという、溶接機メーカーだ。
実は、小型溶接機は全国のホームセンターで売られていて、簡単に手に入る。ただ、これを買って、鉄の加工を楽しんでいる日曜大工ファンは少数派だ。
「そんなニッチな品を世に広めるには、まず溶接の楽しさを体験してもらうことが不可欠。しかし、気軽に体験できる場がない。そうした場をつくろうと考えたわけです」
と話すのは鈴木穰社長。
「もっとも、当初は、現状のニーズは小さいと予想していた。草の根的に細く長く続けていこう、と考えていました」
その予想は良い意味で外れた。テレビなどで取り上げられたこともあってか、オープン半年後くらいから客が増え始め、1日中、予約で埋まるようになった。当初は水曜・土曜だけの開催だったが、予約がさばききれなくなったため、日曜も開催することにしたそうだ。
もう一つ予想外だったのは、女性客の多さ。なんと全体の7割を占めるという。
「女性のお客様は、陶芸やガラス工芸のようなノリで来られる方が多いですね。観光で通りがかったカップルの方でも、興味津々なのは女性の方。溶接に悪いイメージを持っている方も、予想以上に少なかった」
一方、男性客はリピーターになる確率が高く、半数以上がその場で1台数万円もする溶接機を購入していくそうだ。アンテナショップとしての役割を十分果たしているといえるだろう。
「また、従業員教育をする上でも最高の場。うちの営業マンも技術者も、エンドユーザーと直に話せるのは、ここだけですからね。実際、ここで聞いたお客様の悩みから、溶接経験の少ない一般ユーザーには使いにくい部分があることを知り、商品を改良しました」
さらに溶接の魅力を知る人を増やすために、現在は、全国各地で溶接教室を開く提携店を募っている。すでに長野や愛知などに提携店を増やせたそうだ。
以上のように、良いことづくめの溶接体験教室だが、これまでは誰も始める人がいなかった。鈴木社長も言っていたように、「大したニーズはない」と多くの人が考えていたのだろう。
このように、「業界外の人はやってみたいと思っているのに、業界内の人はそのニーズがないと思い込んでいる」仕事や技術は、他にもありそうだ。自社の仕事をフラットな視点で点検してみると、思わぬチャンスに気づけるかもしれない。
(カデナクリエイト/杉山直隆)
◆社長の繁盛トレンドデータ◆
フェニーズ(Fe★NEEDS WELDERS POINT)
神奈川県鎌倉市佐助 1-15-12
TEL:0467-24-5977
http://www.feneeds.jp/