まず何をおいても、下の画像をご覧いただきたいのですが、この商品、何なのかという話です。
5cm角のキューブなのですが、それぞれの面にはまん丸の穴が空いていて、そこからボールが少し顔を出す(ただし、キューブから完全に外れて飛び出すほどの穴ではない)というものです。
おもちゃなのか。違います。健康グッズなのか。それも不正解。
これ、ドアストッパーです。これを床に置くと、ドアを好きな位置でぴたりと止められるというもの。東京の株式会社三洋の手による「Door Cube」という商品で、値段は税別1000円。発売からの3年間で3万個が捌けたと言いますから、スマッシュヒット作と言っていい。
私、いろんなドアで試してみました。自宅の部屋にある木製のドア。どれもしっかりと止められた。ではすごく重いドアだとどうか。ある放送局のスタジオブースの入り口にある、とてつもなく重厚なドアでやってみたら……あっけないほどラクに止められました。全開状態でも、半開きの位置でも、です。
いったいなぜ? 中に入っているボールがポイントらしい。摩擦係数が高いボールで、これが床と擦れて、ドアをしっかり受け止める。単純なつくりですが、機能は本物。よく考えたなあ、と唸ってしまいました。それにデザインもまた洒脱ですしね。
同社は、樹脂製品の商社であり、近年は商品の自社開発も手がけているといいます。プロ向けの道具から一般消費者向けの小物までを取り扱ってきました。
この「Door Cube」は、外部デザイナーとの協業と聞きます。いいアイデアがあるなら、一緒に開発して商品化しましょうというのが、同社の方針だそうです。
ただ、この商品の開発初期は、社内でもいぶかしげに見る向きも少なくなったらしい。「いったい、何をつくっているんだ」というふうに……。何となく想像はつきますね。その形も従来のドアストッパーのそれとは違いますし(ただし、そのおかげで、ドア下にかませるようなくさび形の商品よりもはるかに使い勝手はラク)、そもそも需要はあるのかという疑問もあったはずです。
それでも開発担当者はひるまなかった。なぜなのか。
「そこに『驚き』があり、明らかに『予想外』な働きを見せる。で、『実用性』は十二分」
だから、反響があることを確信していたのですね。担当者がひるまないこと、また、ひるまなくて済む社内文化がそこにあること、どちらも大事だと改めて感じました。
それにしても……先ほどお書きしましたように、どんなドアでも面白いように止まるストッパーです。中に入っているボールを作り上げるのは大変だったのでは?
「実はこのボール、『スーパーボール』をつくっている町工場に依頼したんですよ」
なんと……古くからある、あの人気玩具ですね。今では製造している町工場も少なくなっているそうです。スーパーボールを生産する技術がこうした生活雑貨の分野で役に立つとは、これもまた見事な発見ではないかと感じました。
この「Door Cube」、発想そのもの、そして発想を形にするまでの努力が素晴らしい。と同時に思うのは、「Door Cube」をなすパーツそれぞれは、言ってはなんですが、枯れた技術がもとであるわけですね。そこがまた痛快な話です。繰り返しになりますが、あのスーパーボールですよ、あっと驚く機能を体現できた、その源は……。