7都府県を対象とした緊急事態宣言が出た時期ですから、外に出かけなくても取り寄せ(ネット通販)で入手できる、あるスマッシュヒット商品の話を、今回はお伝えしましょう。
今年2月末に発売となって、たちまち初回生産分を捌ききり、先日、追加生産分が売り出された「キミニミキ」という飲料です。値段は200mlで税別500円ですから、飲料としては決して安くない。しかも、現在購入できるのは、鹿児島市内の数店舗と、公式のネットショップ(https://amamikoyomi.stores.jp)くらいです。それでも好発進を見せている。
「キミニミキ」って、いったいなんなのか。そして、どうして私がこの商品に注目したのか。それを綴っていきたいと思います。
これが商品です。2種類あって、ひとつは「黒」、もうひとつは「白」です。
そもそもの話からしますね。奄美大島には古くから「ミキ」という発酵飲料があります。これ、お米とサツマイモと砂糖から作られる、甘酸っぱい飲み物。ちょっと酸味のきいた甘酒という感じです(アルコールは含まれていません)。奄美では、このミキをお供え物にしてきた経緯があります。ミキの語源は「神酒」なのですね。
奄美のスーパーマーケットに行くと、このミキが1リットル300円ほどで販売されています。島にあるいくつもの事業者が商品化しているんです。ただ、地元出身者に言わせると、奄美にいる若い人はあまり飲まない。おばあちゃんの家にある飲料という感じ、だそう。
でも、このミキって、すぐれた発酵飲料とも表現できます。疲れたときに1杯ごくりと飲むと、なんと言いますか、身体にしみていく気がします。
そんなミキを過去のものにしてしまっていいのか……。島の出身で、現在は島を離れ、鹿児島市街で奄美料理の飲食店を営む、ひとりの女性はそう考えました。彼女は30代で、島にいたころにはミキはもう古くさい飲み物というイメージではあったのですが、ふと、ミキの持つ魅力を伝えたいと思い立ったそうです。このまま埋もれさせてしまうのはもったいない、と。
ただ、従来のミキをそのまま全国に売り出すのでは、普及はおぼつかないだろうとも踏まえたそうです。これまでのミキはちょっと重いと言いますか、甘みもけっこう強めだったので。
私、商品開発で大事なのは、「(既存の商品と)なにを変えて、なにを変えないかを、しっかりと見極める作業」であると、常々思っています。では、彼女はミキを新たに商品化するに当たって、なにを変え、なにを変えなかったのか。
まず、製造委託先は、あくまで奄美の事業者としました。ミキの本来の味、そしてミキの歴史をよく知る人にこそ委ねられるわけですからね。そして買えたのは……。
先に触れたように、「黒」と「白」の2種を作った。「黒」のほうは竹炭とレモンを加えています。北米ではチャコール(炭)ドリンクが人気を集めていますね。そこにヒントを得たらしい。「白」は生姜味です。生姜もまた、若い女性層が好感を抱く素材です。
そしていずれも、飲んでみるとわかるのですが、とてもシュッとした、すんなりと口にできる味わいとしています。甘すぎず、飲みやすく、しかもエッジがきいている。
「黒」「白」の2種類としたことで、販売上の思わぬ効果を生めたとも、彼女から聞きました。「90%ほどの購入客が、2つをセットで求めてくる」のだそうです。確かに……両方試したくなりますからね。そしてクチコミで、偶数単位で売れてゆき、発売から1カ月も経たないうちに、初回生産分が完売となった。実に巧みな手法だと感じ入りました。
さあ、まとめに入りましょう。この「キミニミキ」、ヒントになるポイントがいくつかありますね。改めて整理しましょう。
まず、足許に古くからあった宝物を生かした。地域発の商品の場合、これってとても大事なところだと、私は思います。
次に、変えるべきところと変えるべきでないところをしっかりと見極めた。先ほどご説明した通りです。
まだあります。この「キミニミキ」の開発と商品化にかけたコストは、初期段階で90万円程度に抑えているという部分なんです。90万円でまずは1000万本という計算であると聞きました。
「最初は小さく始める、という意識で臨みました」。彼女はそう言います。
スタートアップの戦術にはさまざまな形が考えられ、一概になにが正解かは断言できませんが、今回の「キミニミキ」のように、小さく始めて、そこから少しずつ無理なく育てるという考え方は、ひとつのやり方として間違いなくあるのだと感じました。
実際、それで早くも答えを出せているわけですしね。