今からもう5〜6年以上も前、ITの領域で「スマート」という用語がもてはやされましたね。社会や生活の面倒や困難をITの力で解決する、という意味だと私は理解しています。
これは私がいつも各所で話していることなのですが、IT分野では新しい言葉が登場したのち、それがいわゆる死語と化したタイミングでこそ、その言葉が示す概念が社会に定着したと判断できるかと思います。ひとつの例で言いますと、「ユビキタス」ですね。今から15年ほど前によく耳にしていました。これは、いつでもどこでもネットアクセスできる社会を指す言葉です。でも、現在ではユビキタスなんてわざわざ言わなくても、スマートフォンやウェアラブル端末の普及によってそれは実現できています(「ウェアラブル」という言葉も、そういえば急激に陳腐化しましたね)。
で、「スマート」に話を戻します。スマート社会は今、どこまで実現できているのか。「スマート」って、完全な死語というほどの段階にはないように思えますし、同時に、「スマート」の示す概念が社会全体で実を結んでいるというまでは言えないかもしれません。
で、今回の商品は何かというと、日立グローバルライフソリューションズの「スマートストッカー」です。商品名にしっかり「スマート」と謳っている。実際に購入して使ってみました。
写真をご覧いただくとおわかりいただける通り、これ、小型(113リットル)の冷蔵庫です。家庭のサブ冷蔵庫として使うべき商品。社会がコロナ禍に見舞われた昨年以来、自宅で食事をとる頻度が各家庭で高まったこともあり、食材を蓄えておくための家電商品として、サブ冷蔵庫にじわじわと注目が集まったという経緯があります。
この「スマートストッカー」の実勢価格は約7万円。どこが「スマート」なのかというと、庫内の2段目と5段目にそれぞれ重量センサーが備わっていて、そこに収めている食材の減り具合を重さによって測定できます。そして、その結果を逐一、ユーザーのスマートフォンに知らせてくれる、という機能を持っています。
上の写真だとわかりやすいかもしれません。2段目と5段目がそうで、ここに入れた食材が「スマート機能」の恩恵にあずかれるという話。
写真では2段目に豆乳のパック、5段目に缶ビールを入れていますけれど、冷凍食品(例えば冷凍弁当のような商品)でもいいんです。というのは、この「スマートストッカー」って、庫内を「常温」「冷蔵」「冷凍」に切り替えることが可能なんです(ただし、個別の棚ごとの切り替えは不可。冷凍庫として使う場合は、庫内全体が冷凍モードになります)。
2段目や5段目に食材を収めたら、最初にスマートフォンのアプリで設定する手間はかかります。棚にフルに入れた状態での重さを測定したり、商品名を入力したりする必要がある。そんなに難しい作業ではないものの、ユーザーによっては、ちょっと面倒と感じるかもしれません。
これがアプリ上での画面構成の一例です。2段目と5段目に収めている食材の名前やその画像はユーザーが設定(撮影)します。で、あとは庫内にあるそれらの残量(重量ベース)をアプリで知ることができます。残量が少なくなると、アプリに通知してくれるという機能もある。また、アプリからはネット通販サイトに簡単に飛ぶこともできるような構成となっているので、残量が少なくなったらすぐに買い足すこともできます。
さあ、こうした「スマートな機能」はどれほどのものと言えそうか……。私には正直、「道なかば」と感じられました。数年前、他の家電メーカーが発表したプロトタイプ(試作機)などでは、庫内に小型カメラが設置され、それによって食材の在庫管理がほぼ自動でできるとか、冷蔵庫の本体外側に大型の液晶モニターが付いているとか、ずいぶんと先進的な機能を誇示するものがありました。
それに比べると、この「スマートストッカー」は、重量センサーという、いわば枯れた技術の活用による在庫管理手法をとっていますし、ユーザーが何かと設定・入力する必要もそこにはあります。その意味では「夢のようなスマート機能によって、冷蔵庫の在庫管理を自在にできる」というほどではないかもしれません。
それでも……この段階で、こうした商品を実機として登場させたこと自体には意味があると思います。商品を出してみないと、その先にはつながらないという側面が間違いなくあるからです。これは自動車における「スマート」の実現に向けて、いくつもの段階を経ることが必要なのと似ているかもしれません(たとえば自動運転システムの完全浸透に到達するまでには、段階を追うように一歩ずつ進むしかないのと同じですね)。
まあ、サブ冷蔵庫としての機能にはさほどの不足はないと思われますし、私個人としてはそれなりに使えているという感じですね。