2020年以降、「人がどうやって動くか」はきわめて重要な課題になってくると思います。人口減少で、地方の都市や中山間部では移動手段の確保がおぼつかなくなります。クルマでいいじゃないか? いや、シニアの方々が「移動する自由」をしっかりと獲得し続けるには、既存のクルマではない別の存在が必要になってくるとも考えられます。クルマを運転するのはもうきつい、という方もいらっしゃるでしょから。
では、大手自動車メーカーが、そのような課題を解決すべく、新しいモビリティ像を提案するのか。もちろんそれもあります。各社とも真剣に取り組んでいるとみられますしね。でも、大手どころだけではない。ここが今回の話のポイントです。
この2019年、「人が動く」ことに関して、大手自動車メーカー以外の中小企業やベンチャー企業が、いくつもの興味深いモデルを発表しています。それはいずれも「電気で動くモビリティ」です。部品点数の少ないEV(電気自動車)では、そうした規模の企業が市場に割って入ることが、過去の内燃機関(エンジン)を搭載するクルマに比べると、一定に可能だからでしょうね。
例えば……。
この画像は、タジマEVによる「イーランナー」。軽自動車よりはるかにコンパクトですが、いざというときは4人乗れます。
こういう超小型のEVって、過去に大手自動車メーカーが何台も試作モデルを発表しているのですが、それらと比較すると、面白い点があります。まず、具体像をより示していること。コンパクトな割に車内空間がまずまず確保されていて、これなら使えそうと感じさせる。
さらに、ここが大事なのですが、大手自動車メーカーが過去に発表したモデルより格好良いんです。デザインがそんなに大事? いや大事でしょう。格好良くないと乗りたいと思いませんからね。タジマEVはそこを極めて重視したそうです。ものを見る目の肥えたシニアの方に訴求するには、デザインは大切な要素に決まっています。ちなみに、このモデル、世界的デザイナーの奥山清行さん(フェラーリをデザインした唯一の日本人です)の手になる一台だそうです。
近々、出光興産が岐阜県の中山間地で行うモビリティ実証実験で、この「イーランナー」が採用されるとのことです。
まだあります。こちらはFOMMの「FOMM ONE」という超小型EV。やはり4人乗りですが、「イーランナー」と同様にすごくちっちゃい。そしてもうひとつ、特徴があります。この「FOMM ONE」、災害に見舞われた場面で水に浮く超小型モビリティだというのですね。密閉性を高めたボディで、水没への心配をなくすことを目指したモデルなんです。水に浸かった状態でも、極低速ではありますが動くとも聞きました。
タイではすでに今年4月の発売から1600台を受注。価格は日本円換算で200万円程度だそうです。それでもこれだけの台数を、失礼な言い方ですが、ほぼ無名の企業がこの受注台数を獲得しているのは意義ある話と思えます。
同社のスタッフがこんな話をしてくれました。「言ってみれば『専門店』のような感覚で、はっきりしたコンセプトを打ち出し、それを貫くクルマづくりをしますから」
なるほど。その意識は重要ですね。小さな規模の会社には「専門店」のような尖った提案力が求められるということ……。
最後にもう一台、お伝えしましょう。やはりベンチャー企業であるWHILLが、この秋に羽田空港で実証実験を行いました。同社の電動車椅子に自動運転システムを組み込み、それを使って、歩くのが大変な方を、空港内の搭乗口など望む場所まで自動で運んでくれるというものです。目的のところまで移動して人が降りたら、電動車椅子は所定の位置まで無人で動いて戻るんです。そしてまた人を乗せて、という仕組みです。
どうしてここでまた電動車椅子の話を? 考えてみると電動車椅子って、最も小さなサイズの超パーソナルなEVと位置付けることができますね。そこに自動運転システムを導入すると、「EV+自動運転」という、名だたる大手自動車メーカーが現在必死で開発している領域の話になるわけです。WHILLは、ベンチャー企業でありながら、それを(実証実験の段階とはいえ)すでにこうして完全に現実のものにしたということ。
どうですか。3社とも、「次のモビリティ=移動手段とはこうあるべき」という旗をそれぞれしっかりと掲げているところが実に重要だと、私は思いましたね。